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選択2016参院選 原発再稼働 事故時の避難 課題山積 

患者ら搬送 手段不十分

 松江市鹿島町の中国電力島根原発の南東約1・5キロにある鹿島病院。原発5キロ圏で唯一、入院患者がいる医療施設で、病床は177を数える。「絶対安全な建物はない。原発事故発生時の患者の搬送手段の確保など課題は山積みだ」。熊本地震関連のテレビニュースを見て、総務課の高井美佳(よしか)課長はつぶやいた。

行き先決まらず

 高井課長は避難対策を担当する。島根県が2012年に策定した広域避難計画では、原発事故発生時、避難準備が整うまで病院内に退避すると想定。病院は14年、国の事業で放射性物質の侵入を防ぐ工事もした。

 だが、中電が東西25キロとみる宍道断層が間近に走る。施設の耐震性はあるが、熊本のように余震が何度も続く可能性もある。「屋内退避ができないとき、どこに避難するのか。道路が寸断されると交通手段はどうすればいいのか。明確な指針がない」。高井さんは計画の不備を訴える。

 福島第1原発事故を受け、原子力防災の対象地域は従来の10キロ圏内から30キロ圏内に拡大された。自治体は教訓を踏まえ、試行錯誤しながら防災対策の見直しに取り組んでいる。島根県の広域避難計画は30キロ圏内の39万5千人を県内と広島、岡山、鳥取県などの施設に一時避難させる。だが、入院患者の避難先は、病状の多様さなどを理由に決まっていない。

国の主導を要望

 鹿島病院は昨秋、島根県の調査に対し、当時入院中の150人のうち、避難時に33人が車いす、117人がストレッチャーでの移動が必要と答えた。病院にはしかし、車いすを載せられる車両は5台、ストレッチャーに対応する車両は1台しかない。入院患者全員の搬送に必要な医療従事者は、現状より約40人多い150人とはじいた。

 島根県防災部の岸川慎一部長は「車両の調達や自衛隊の出動などは、県のレベルを超えた分野。調整の努力はするが、限界もある」とする。全国原子力発電所所在市町村協議会は5月、対策に国が主導的役割を果たすよう求める要望書を丸川珠代原子力防災担当相に提出。対象地域が広がる中、1自治体では対応できない課題が「極めて多い」と訴えた。

 安倍政権下では「原発回帰」が進む。四国電力は7月中にも、伊方原発(愛媛県伊方町)の再稼働を目指す。中電は、島根2号機の再稼働を申請した。

 参院選の島根、鳥取合区選挙区(改選数1)の前哨戦で、原発を巡る議論は盛り上がっていない。現職を立てる自民党の島根県連幹部は「有権者の最大の関心は合区解消と地方創生」との考え。一方、無所属新人を統一候補として推す民進、共産、社民の各党は、原発へのスタンスに差もあり、前面に出しにくいのが実情だ。

 昨年10月、島根県は島根原発の西約1・5キロの鹿島町片句地区で、在宅の要支援者を運ぶ訓練を初めて実施した。参院選の公示が迫る中、地元で漁業を営む山本千代則さん(70)は「地区は高齢者ばかりで避難先の大田市に向かう車両が必要。安全対策の議論を急いでほしい」と望む。(秋吉正哉)

島根原発
 松江市鹿島町に立地し、全国の原発で唯一、県庁所在地にある。30キロ圏の島根、鳥取両県6市に計約47万人が住む。中国電力は昨年4月、1号機(出力46万キロワット)を廃炉。2号機(同82万キロワット)は再稼働の前提となる国の審査中で、ほぼ完成している3号機(同137万3千キロワット)も審査申請を目指している。

(2016年6月20日朝刊掲載)

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