天風録 「『住民ゼロ」の町」
16年6月21日
今月は、政府提唱による「東北復興月間」でもある。大震災の節目なら3月のはずだが、サミットが済むまではさすがに手が回らなかったのだろう。現状を伝える催しが被災3県や都内で相次ぐ▲復興庁のフォーラムでは、福島県南相馬市小高区で起業した元IT会社役員の声が耳に残った。東京電力福島第1原発の20キロ圏。日中は出入りできるが、寝泊まりは禁じられている。「地域課題が100あれば、100のビジネスをつくりたい」と▲長引く避難生活で帰還を諦めた駅前のラーメン店を借り受けた。地元の女性を雇い、手料理を出すと、弁当に飽きていた除染作業員で満員に。立ち寄る住民も増え、ラーメン店のあるじは再起する気になったという▲3・11は、過疎という時計の針を何十年か進めたとされる。高度成長の陰の側面が「過疎」なる造語で浮き彫りにされ、半世紀。だが、対になるべき克服策の造語はまだ聞こえてこない▲過疎地どころか、原発事故で「住民ゼロ」から復興を余儀なくされている福島の古里。へこたれず、立ち上がる姿に学ぶべきものは多い。山のような課題も、仕事や研究の種になると思えば「宝の山」に見えてくるかもしれない。
(2016年6月21日朝刊掲載)
(2016年6月21日朝刊掲載)