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選択2016参院選 非核政策 オバマ氏訪問どう次へ 

法的禁止の論争乏しく

 松本都美子さん(84)=広島市佐伯区=は、子どもたちに被爆体験を証言する時、5月27日に平和記念公園(中区)を訪れたオバマ米大統領の様子に触れるようになった。「原爆慰霊碑前で目をつむり、犠牲者を追悼してくれました」。今月半ばも、平和学習で公園を訪れた市内の児童約30人に表情を和らげて話した。

 71年前の8月6日の朝。米国が原爆を落とした広島の爆心地から約1・4キロの校庭で背中や腕を焼かれた。母親と弟は自宅で被爆死。悲しみを背負って生きてきた。オバマ氏の訪問を自宅のテレビで見て、胸のつかえが少し取れたという。「原爆と戦争を絶対に繰り返さないと誓い、他の国にも呼び掛けてほしい」

米への感情 複雑

 そんな松本さんの思いは、米国への複雑な感情をこらえながら、米大統領を迎えた多くの被爆者や市民に通じる。

 しかし、核拡散防止条約(NPT)が、米国をはじめとする核兵器保有五大国に義務付けた核軍縮は進まない。そして日本は、米国の「核の傘」に安全保障を頼る。近年、核兵器を持たず頼りもしない国々が核軍縮の停滞にしびれをきらし、核兵器の法的禁止を求めて声を強める。その流れに、「唯一の戦争被爆国」と掲げる日本政府はあらがっているかのように見える。

 日本は昨年12月の国連総会で、法規制を含めた核軍縮策を話し合う作業部会の設置決議案の採決を棄権した。138カ国が賛成し、米を含む五大保有国は反対。日本は禁止議論を「保有国と非保有国を分断させかねない」と、けん制し続けている。

 保有国の米英仏を含む7カ国と欧州連合(EU)が参加し4月に広島市であった外相会合。そこで発表された「広島宣言」にも、保有国が主張する段階的な核軍縮が盛り込まれた。

 「日本は核抑止力を肯定し、保有国の代弁者にすぎない」との不満が、被爆者団体や反核非政府組織(NGO)に広がる。

 国連の作業部会は8月に報告書をまとめ、秋の国連総会へ提出する見通しだ。法的禁止について国連で議論を始めるかどうか―。NGO関係者らが見定める次のヤマ場が迫る。

「若者が先陣を」

 しかし、参院選の前哨戦で、核軍縮や廃絶を巡る政策論争は聞こえなかった。今月半ば、中区であった本年度の高校生平和大使の結団式。「オバマ氏の広島訪問の実現を生かして日本が廃絶へとどう行動するか。具体策をもっと聞きたい」。会場を訪れた安佐南区の大学2年中村祐理さん(19)は望んだ。

 福山市内の高校の3年時に大使を務め、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で核兵器廃絶を訴えた経験を持つ。新しい大使に就いた後輩22人も同様に8月に訪れる。

 選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、中村さんも有権者となる参院選。「オバマ氏頼みでなく、被爆国日本の若者が小さなことでも行動の先陣を切らないといけないと思う」。投票もその大事な一つだと考えている。(水川恭輔)

(2016年6月22日朝刊掲載)

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