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社説・コラム

天風録 「ビートルズの国」

 7曲目が「イエスタデイ」だった。なぜ彼女は離れていったのか―。日本武道館をポール・マッカートニーが切なく歌う失恋の嘆きが包む。英国のビートルズ来日から半世紀。初公演の「6・30」の感動が色あせない人もいる▲不良の音楽と眉をひそめる大人をよそに、日本の若者たちは熱狂的に受け入れた。折しも、いざなぎ景気を迎え、総人口も1億を突破した頃だ。極東の島国に足りなかった刺激を、輝く4人組は運んでくれたのだろう▲50年後に、その母国で今度は「6・23」が歴史に刻まれた。国民投票で決めた欧州連合(EU)離脱。あるいは結果が出る瞬間まで「レット・イット・ビー(あるがままに)」の心境だった民もいたのかもしれない▲4人とも健在なら混迷の時代をどう歌うだろう。移民との対立、しゃにむに利潤ばかり求める風潮…。敗れはしたが、残留派が名曲に思いを託したのも分かる。「愛こそはすべて」だと▲今も現役のポールは賛否を語らなかった。ただ日本の教科書に載った数々の歌はメロディーの美しさと感情のひだを教えてくれる。なぜ英国は離れていったのか―。嘆くばかりではなく欧州からの「ヘルプ!」に耳を澄ませたい。

(2016年6月25日朝刊掲載)

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