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社説・コラム

社説 英EU離脱へ 経済危機を食い止めよ

 歴史に残る選択といえよう。欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国の国民投票は、離脱支持票が過半数を上回った。

 残留派と離脱派で英国世論は二分されてきたが、最新の世論調査では残留派がやや優勢と伝えられていた。それだけに世界中に衝撃が駆け巡った。

 キャメロン英首相も辞意を表明するなど、波紋は広がるばかりである。きのうは東京の外国為替市場でも円高が加速し、日経平均株価は大きく下落した。まずは欧州にとどまらず国際社会全体として市場の不安とどう向き合うか迫られよう。

雇用悪化の不満

 注目すべきは、離脱を求める声が広がった背景である。

 第一の要因は難民・移民問題だろう。EUは域内の移動の自由を認めている。東欧諸国が加盟した2000年代以降、英国では安い給料でも働く移民が急増し、「雇用が奪われている」との意識が低所得者層を中心に広がった。移民への社会保障費の増大も不満に結びついた。

 もう一つが自国の主権回復を求める声である。EUは経済や人権などで共通政策を拡大している。例えば英国には北海という優良漁場がありながら漁獲量割当制で自由に漁ができない。労働時間や税の規制を巡っても成長を阻んでいるとの見方が強い。「離脱で英国の権利を取り戻そう」との声が湧き上がったのも、そのためだろう。

 さらにいえば、既存政治への不信感も見逃せない。経済が低迷する中、労働者や高齢者層を中心に社会への不満が蓄積された。それが欧州で相次いだテロ事件などを契機に、一部では排外主義と結びつき、反EUの動きが広がったと考えられる。

 しかしEU離脱後の前途は明るいとは限らない。キャメロン政権は離脱で貿易や投資の減少は避けられないとして今後2年で国内総生産(GDP)が最大6%減少すると試算していた。

 むろん離脱自体はしばらく先のことだ。英国とEUとの貿易交渉など、新たな関係を築くには「少なくとも7年かかる」との声がEUにある。さらにEUが各国と締結してきた貿易協定の枠組みからも外れるため、世界中の国々と交渉をし直すには膨大な時間を要する。

統合の歩み後退

 ただ、少なくとも地域統合という歴史上例のない取り組みを続けてきたEUにも試練を突き付けたのは間違いない。

 EUは民主主義や人権、法の支配という価値観を共有し、国際社会をけん引してきた。しかし近年、ギリシャ財政危機や難民問題を機に、その基盤は急速に揺らぎつつある。

 加盟国内の反EUの動きは英国だけにとどまらない。単一通貨ユーロに懐疑的なローマ市長が誕生した。フランスやオーストリアでも「反移民」を掲げる政党が勢力を拡大している。このままでは「離脱ドミノ」になるとの悲観論すらある。そうなれば、統合の歩みが後退するだけでなく、世界の安定にも甚大な影響が及ぶ。

 ドイツやフランスなどEU創設に関わった6カ国は25日、ベルリンで緊急会合を開く。英国離脱の影響を最小限に食い止める努力を求めたい。例えば域内で富の再配分をしながら、加盟国の多様性や規制の自由度をもっと柔軟に認める視点も要る。

 同時に世界経済に与える影響への対応策が国際社会に求められる。実際に離脱する前であっても英国の政治経済の混乱によって世界経済の収縮という最悪のシナリオも想定される。

軟着陸を目指せ

 日本も当然、「対岸の火事」どころではない。英国に進出する日本企業は中国地方を含めて千社を超え、英国と欧州経済の行方は日本経済の行方にも直結する。金融市場の動向と併せてアベノミクスのシナリオが狂うこともあり得よう。

 安倍晋三首相は「市場の安定化に万全を期す必要がある」と述べた。既にブレーキがかかる世界経済をさらに冷やし、危機を招いてはならない。英国の選択の影響を冷静に見極め、先進7カ国(G7)の枠組みなどを通じて軟着陸を目指したい。

(2016年6月25日朝刊掲載)

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