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社説・コラム

争点を語る2016参院選 出雲市伊野地区自治協会会長・多久和祥司さん=出雲市

原発事故避難策 議論を

 出雲市で唯一、中国電力島根原発(松江市鹿島町)の10キロ圏に位置する伊野地区で、原発事故に備えた住民1340人の避難対策に取り組んでいる。高齢や病気で自力の避難が難しい人を把握するため、昼間の独居など世帯ごとのきめ細かな実態調査や、出雲市の広域避難計画で指定されている避難先訪問などの交流事業を進めた。

 しかし、住民組織の努力ではどうしようもない課題もある。避難道となる県道の一部は車1台がやっと通れる狭さで、要支援者の避難に必要な車両確保策は明示されていない。市内の避難先も近隣地域を含めた住民約8千人が向かうため、全員を収容できない可能性がある。現状では十分な避難態勢が確保されているとはとても言えない。

  ≪福島第1原発事故後、国が定める「原子力災害対策重点区域」は10キロ圏から30キロ圏に拡大。自治体は避難計画の策定に追われた。一方、安倍政権が重要電源と位置づける原発は全国で再稼働が始まり、島根2号機も再稼働の前提となる国の審査が進む。≫
 福島事故直後は避難対策への国民の関心も高く、国や自治体も真剣に取り組んでいた。だが、原発回帰とともにトーンもスピードも落ちていると感じる。安全な避難態勢が確保されていないのに、再稼働はおかしいと地区住民の大部分は思っているはずだ。

 原発に限った問題ではないが、課題をみんなで議論し、解決していくプロセスが見えてこない。こういう政治の進め方で、今回から投票権を得る18、19歳の若者に希望を与えられるのか疑問だ。

  ≪島根県東部で中学教諭を務め、原発5キロ圏の松江市島根町でも勤務した。2012年に退職した後は、地元の伊野地区の地域づくりを担い、伊野小の地域教育充実や農業の担い手育成に力を注ぐ。≫
 地区の将来人口予想は15年後に約千人。だが、地区へ移住しないかと声を掛けた人の家族に「伊野は原発に近いから」と言われたこともある。住民の命と財産の確保は行政の使命。安全で平和に暮らす権利が軽んじられたまま再稼働ということになれば、政治は進歩していないことになる。広域避難は原発周辺だけの問題とせず、国政上重要な問題として真剣に議論してほしい。(聞き手は秋吉正哉)

(2016年6月25日朝刊掲載)

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