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社説・コラム

社説 ’16参院選 震災と復興 「創造的」の具体策示せ

 東日本大震災から5年余りが過ぎても、復興は果たされていない。特に福島県は原発事故のあおりで避難生活を強いられる住民が、なお9万人を超す。

 4月には熊本地震が起き、住まいの確保すらままならない人たちがいる。そのさなかの参院選である。被災地のみならず、地震列島に暮らす私たちも課題と向き合う機会といえよう。

 東北復興月間の今月、東京で開かれた復興庁フォーラムに宮城、福島、岩手の被災3県の知事が顔をそろえた。インフラ整備は一定のめどは付いたが、暮らしや仕事、まちの再生はこれからだ―と口々に訴え掛けた。

 今回の参院選公約を見ると、与野党を問わず、被災地の意向を反映させた跡はうかがえる。住まいの再建や地域経済の再生を優先課題として挙げ、心身のケアや地域コミュニティーの形成といったソフト重視の復興にも目配りをしている。

 異論はない。一方で違和感も拭えない。なぜ5年たって、あらためて打ち出さなくてはならないか。裏を返せば後回しにしてきた証しにほかなるまい。

 遅れる復興が何をもたらしたか。東北の被災3県で既に3400人に及ぶ「震災関連死」が復興行政の問題点を物語る。

 この選挙に入る前から繰り返されてきた決まり文句が「創造的復興」である。だが、その具体的な中身は聞こえてこない。

 21年前の阪神・淡路大震災当時の貝原俊民兵庫県知事が掲げたスローガンである。単に震災前に戻す復旧ではなく「21世紀の成熟社会にふさわしい復興を成し遂げる」との趣旨だった。しかし、いまだ現実のものとして示されてはいない。

 阪神大震災では16兆円を超す資金が投じられたものの、実際は従前からの開発事業と代わり映えしなかった。塩崎賢明・神戸大名誉教授によれば、復興資金の4分の1近くは震災と直接関係しない事業に充てられた。大半は神戸空港の建設といったインフラ整備だった。

 東日本大震災も、この3月まで5年間の集中復興期間に約26兆円の復興予算が計上された。政権交代を挟み、堤防の大幅なかさ上げなど土木偏重の手法が推し進められた。だが復興の視点としてどうなのか。

 東洋一をうたう巨大堤防があったのに、3・11で多くの死者を出した地域もあった。震災の歴史は想定外の歴史でもある。広域火災で死者が増えた関東大震災の二の舞いとならぬよう備えれば、阪神大震災で家屋倒壊の圧死者が多数出る。ならばと耐震補強を重視すれば、次は想像を絶する巨大津波である。

 将来起こり得る南海トラフ巨大地震に加え、熊本地震で再び浮き彫りになった活断層リスクとも日本は向き合わなくてはならない。仮に想定外の事態に見舞われても生き延び、立ち直る力こそが求められよう。その道筋を政治がどう示すか。活発な論戦を今からでも聞きたい。

 それを待ちわびるのが、福島の被災者だろう。風評と風化の二重苦で復興の圏外に追いやられた感は強い。生活再建のめども立っていないのに、避難区域の解除ばかりが相次ぐ。

 創造的復興の具体策は福島の地でこそ示すべきだ。政治家たちが「福島の再生なくして日本の再生なし」と口をそろえていたことを忘れてはならない。

(2016年6月26日朝刊掲載)

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