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社説・コラム

天風録 「梅雨晴れの耳福」

 目の保養を「眼福(がんぷく)」ともいう。なぞらえれば、これは「耳福(じふく)」だろう。きのう梅雨晴れとなった広島市平和記念公園で、厳かな調べが原爆慰霊碑辺りから聞こえてきた。鎮魂のミサ曲だった▲四国の徳島少年少女合唱団で、公演の帰りがけという。結成50年を超す歌声は欧州でも知られ、東日本大震災からの復興を祈るバチカンのミサには日本から唯一招かれた。碑前の一曲は、その際にも歌った「平和の賛歌」。おのずとこうべが垂れる▲減量中に「肥えたね」は禁句だが、耳や目、舌に限っての言葉なら、むしろうれしかろう。美しく、心地のいい時間に浸る。五感は、そうやって自ら養える力かもしれない▲広島と徳島には、「島」の字が付く共通点以外にも、ご縁があることを今回教わった。徳島県はドイツのニーダーザクセン州と友好縁組を結んでいる。その州都ハノーバーは、広島市の姉妹都市にほかならない。来年秋には、かの地の少女合唱団が公演で広島や徳島も回るそうだ▲と、カープ戦の実況に気を取られつつ書いていたら、球場が逆転サヨナラ劇に沸いている。刺激たっぷりの眼福、耳福もたまらない。もちろん、9連勝の祝杯に始まる「口福」も。

(2016年6月27日朝刊掲載)

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