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社説・コラム

社説 ’16参院選 東アジア外交 選択肢 広く示すべきだ

 参院選が公示された日、北朝鮮が新型中距離弾道ミサイル「ムスダン」を日本海に向けて発射した。グアムや日本の米軍基地を標的に想定しているという。明白な国連安全保障理事会決議違反であり、到底看過できないが、日本をはじめ関係国の対応は決め手を欠いている。

 安倍政権の東アジア外交は道半ばといえよう。安倍晋三首相が取り組んできた北朝鮮による拉致問題の解決は進んでいない。核・ミサイル開発も押しとどめることができないままだ。

 挑発的な行動は中国側にもある。今月に入って中国軍艦が沖縄県・尖閣諸島周辺の接続水域を航行し、鹿児島県・口永良部島(くちのえらぶじま)近くの領海に侵入した。東シナ海や南シナ海を巡って日米や周辺国の反発が強まっているのを受け、日米などへの揺さぶりを強める狙いがあるのだろう。

 昨年9月成立した安全保障関連法によって抑止力が増したとは、今の時点では言い難い。

 安倍政権は日米関係を極めて重視してきた。第2次政権発足直後には首相による靖国神社参拝を行い、米政府から「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動に失望している」と批判されたが、その後は抑制的だ。

 昨年4月には米議会で演説し、真珠湾などを挙げて「アメリカの若者の失われた夢、未来を思った」と追悼の意を示した。ことし5月にはオバマ大統領の広島訪問を実現させ、自民党の公約集には原爆慰霊碑の前で首相と大統領が向き合う写真を掲載しているほどである。

 歴史的な訪問が日米同盟の絆を一層深めることにつながったとアピールしたいのだろう。

 しかし、それは甘いと言わざるを得ない。ほぼ同じ時期に起きた米軍属による女性殺害事件への憤りから、沖縄では日米地位協定の抜本的改正や海兵隊の撤退を求める声が湧き起こり、その足元を揺るがしている。

 日米同盟は在日米軍施設の集中によって沖縄を犠牲にしてきた上、今は米国側の外交・安全保障政策の揺らぎに左右されかねない。大統領選を見据えて共和党のトランプ氏は在日米軍撤退論に繰り返し言及し、民主党のクリントン前国務長官も、日米が既に署名した環太平洋連携協定(TPP)の再交渉を主張し始めているではないか。

 次期大統領就任後の日米関係は極めて流動的だ。東アジアの安定のためには日米同盟の強化を叫ぶだけではなく、日中韓の首脳同士の意思疎通が欠かせない。「歴史認識」の隔たりはなお大きいが、相互理解を深めることは政治家の務めだろう。

 日韓外相は昨年12月、従軍慰安婦問題の解決に向けて合意した。このところの両国関係の悪循環を断ち、真の和解に向かう動きとして評価できよう。

 中国や韓国との関係改善は、与野党の多くが公約に掲げている。公明党は日中間の偶発的な衝突を回避する「海空連絡メカニズム」の早期運用開始も公約に含めている。与党は日米同盟だけに偏しない外交努力の必要性を、もっと訴えるべきだ。安保法廃止を訴える民進党などは、安保法に代わる外交・安全保障論も説く必要があるだろう。

 いずれにせよ、米国が「内向き」になる中で日本は自ら外交の選択肢を狭める必要はないはずだ。選挙戦では、その点をもっと論じ合ってもらいたい。

(2016年6月30日朝刊掲載)

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