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社説・コラム

『潮流』 壁は厚くても

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 トップが望んでいても、なかなか実現しない。取り巻く壁が、それほど厚いことの証しなのだろう。

 2009年のチェコ・プラハでの演説で、被爆地に希望の光を投げ掛けたオバマ米大統領。ようやく訪れた広島市の平和記念公園で、あらためて「核兵器のない世界」を目指す決意を示した。

 それから1カ月、広島を覆っていた熱気は収まりつつある。歴史的訪問を冷静に振り返ることができる好機だ。そう前向きに受け止めたい。

 何より国内外に与えたインパクトは大きかった。ヒロシマにあまり関心のなかった人々の目をこちらに向けさせたのは確かだ。それだけでも意義はあるが、焦りも感じる。ゴールはまだ遠いからだ。

 広島では言及できなかった核なき世界への具体策は、プラハ演説にはいくつも盛り込まれていた。7年たった今、進んだものはそう多くない。大きく動いたのは、イランの核開発に一定の歯止めをかけたことと、核安全保障サミットの開催ぐらいだろうか。

 オバマ氏が本気かどうか疑う人はそういるまい。となるとやはり、米国の大統領でさえ思うに任せない厚い壁があるといえそうだ。

 例えば、プラハで「批准に向け、まい進する」と訴えた包括的核実験禁止条約(CTBT)。野党の共和党が上院の多数を占める現状では、約束を果たせる見込みはない。国内だけではない。ロシアとの戦略核削減交渉は一つ進んだだけで止まっている。

 こうした壁をどう乗り越えていくか―。オバマ氏だけの課題ではない。ましてやヒロシマには、嘆いたり諦めたりしている暇はない。壁が厚くても訴える勇気を失わなかった先人を見習いたい。核兵器がいかに非人道的か、被爆地から発信を積み重ねてきた。それが、不可能だと誰もがずっと思っていた今回の歴史的訪問につながったのだから。

(2016年6月30日朝刊掲載)

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