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社説・コラム

社説 英EU離脱問題 日本への影響見極めよ

 衝撃の後にも悩める日々が待っていた。英国が国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めてから1週間が過ぎた。今なお国民世論が割れる中、政治、経済やEUとの関係について次から次へと新たな決断を迫られる。

 英国の離脱派の思惑は外れつつある。今週のEU首脳会談で厳格な対英方針が示されたからだ。英国が移民受け入れを拒む一方で、EUの自由経済圏にとどまろうというのは「ご都合主義」と突っぱねるという。

 同じ民主国家として英国の民意を尊重しながらも、簡単に譲歩していては他にも「ドミノ離脱」を招きかねないとの危機感が強まったのだろう。現にフランスやイタリアにはEU離脱を訴える勢力もあるからだ。

 ボールを投げ返された格好の英国だが、肝心の国内が揺れている。国民投票の再実施を求める署名も多数集まり、国民投票で残留支持が多かった北部スコットランドでは英国からの分離・独立論が再燃しつつある。

 難局にあって、問われるのはリーダーの力だ。辞意を表明したキャメロン首相の後任を選ぶ保守党の党首選が始まったが、早くも迷走気味だ。離脱派の旗手だったジョンソン前ロンドン市長が辞退し、離脱、残留両派から候補者が立った。EU側は離脱交渉の開始を9月以降としている。新首相はそれまでに国内の混乱を収め、対EU交渉に万全を期さねばならない。

 離脱プロセスは2年とされる。ただ離脱交渉と同時並行で、英国とEUが関税や各種規制において新たな通商交渉を結ぶことになれば7年かかるとの見方もある。このまま混迷が長期化しないことを望みたい。

 日本への影響も当然ある。ただ一時は大混乱した円・株相場も1週間たって、比較的平静さを取り戻しつつある。複雑に絡み合うグローバル経済を冷静に見極める段階だろう。

 まず英国に拠点を置くメーカーや金融機関が今後どうなるかだ。対英投資は年に1兆円を超す。EU離脱が現実となれば、域内関税や規制において不利を強いられる恐れもある。情報収集や対策に万全を求めたい。

 同時に為替相場の行方を中長期的に捉えねばならない。引き続き円高基調にあり、今の水準では輸出企業を中心に企業収益が落ち込み、景気の足を引っ張る恐れはあるからだ。

 ただ円高の背景に、円が為替のリスク分散のため各国の「駆け込み寺」になっている実態も忘れてはならない。政府・日銀の市場介入や追加の金融緩和を求める声があるが、どこまでの効果があろう。日銀にとっての数少ないカードを切るとすれば、明確な裏付けが要るはずだ。

 2008年のリーマン・ショックと比較すると明らかに様相は異なっている。当時の世界経済の混乱に比べれば銀行の資金調達には大きな問題も起きておらず、各国の金融システムはまだ安定している。

 いたずらに不安感にあおられて拙速な対応を取るより、さまざまな想定に基づくシナリオを用意しておくべきだろう。

 折しも参院選のまっただ中である。英国のEU離脱とその影響はアベノミクスの先行きにも直結する問題である。与野党とも円安頼みの日本の経済構造をどう変えていくかの視点も示すべきではないか。

(2016年7月2日朝刊掲載)

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