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社説・コラム

社説 テロ7邦人死亡 卑劣な凶行許されない

 卑劣極まりないテロが、今度はバングラデシュで起きた。首都ダッカで1日夜、飲食店の客らを人質に取った武装グループと警察とが銃撃戦となった。20人が犠牲となり、その中に日本人が含まれていた。

 巻き添えとなった本人の無念、そしてご遺族の悲嘆はいかばかりであろう。許されない蛮行であり、満身の憤りを込め、強く非難する。

 現地からの報道によると、武装グループは、目抜き通りに面した店に押し入った。アラビア語で「神は偉大なり」と叫んで発砲し、外国人客らを人質に立てこもったという。駆け付けた警察に爆発物を投げたり銃撃を加えたりしたらしい。

 飲食店という、監視の目が比較的緩やかな「ソフトターゲット」を狙ったテロの可能性が高い。昨年11月のパリ同時テロを思い出させる。

 やはり、過激派組織「イスラム国」(IS)系の通信社が犯行声明を伝えている。ただ、具体的なつながりはまだ判然としない。組織的な関与がどこまであったのか、まずは捜査を急いでもらいたい。

 バングラデシュの人口1億6千万人のうち、9割はイスラム教徒である。それでも宗教間や宗派の対立によるテロはほとんどなかった。しかし昨今は、状況が一変しつつある。

 ISが昨年11月に、「ベンガルの聖戦」を宣言したからである。バングラデシュから隣国インドにまたがるベンガル地方でのテロも予告していた。ことし初めには、イスラム教からキリスト教に改宗した男性が殺害された事件でISが犯行声明を出している。

 ISは、ラマダン(断食月)の最中も攻撃を呼び掛けており、今回の事件はそれに呼応した犯行の恐れもある。

 気になるのは、現地の治安当局の警戒体制である。現政権は、外国人をターゲットにした襲撃が続いても「国内にISはいない」と言い張ってきた。こうした姿勢が結果として、テロへの対応の遅れにつながった可能性は否定できまい。

 事件を検証しつつ、今後はテロ情報の収集や警備の在り方について根底から見直しを進めてもらいたい。

 同国の格差問題にも目をそむけてはなるまい。この10年余り、経済発展が進んだ半面、貧富の差が開き、治安は年々悪化していたとの指摘もある。

 貧困は、テロの温床にほかならない。格差是正に向けた具体策が求められる。

 バングラデシュはかつて「世界最貧国の一つ」とされ、日本政府は多くの開発援助をしてきた。日系企業の進出も相次ぎ、在留邦人は約千人に上る。今回、事件に巻き込まれた日本人8人も、国際協力機構(JICA)の円借款プロジェクトに関わっていたという。

 日本人に身近なアジアでも、無差別テロが起き得る現実をあらためて肝に銘じる必要がある。もはや、欧州や中東だけの問題ではない。

 外務省は既に、不要不急の渡航中止を呼び掛ける危険情報を出していた。今回の事態で、邦人の安全対策の見直しがいま一度、迫られよう。

 過剰な反応は禁物だが、社会全体で危機感を共有し、リスクに関心と注意を払いたい。

(2016年7月3日朝刊掲載)

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