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社説・コラム

天風録 「黄金のベンガル」

 英国とパキスタンから2度独立したバングラデシュの名は、ベンガル人の国を意味する。国歌はインドの詩聖タゴールの作品だ。「わが黄金のベンガルよ」と歌い、マンゴーの森の香り、秋の稲の実り、心地よい木陰をたたえた。研究者内山真理子さんの訳書に教わる▲タゴールはインド独立の父、ガンジーを支持した。自身も非暴力の立場を選び、農村改革のための教育に力を入れた。「わたしのなすべき努力とは騒乱の背にのっかることでしょうか」と問う詩もある▲首都ダッカでテロに及んだのは、まさに騒乱の背にのっかる者たちだ。国外の過激な思想に染まり、邦人を含む丸腰の外国人を標的にした▲人質にコーランの一節を唱えるよう強要し、できない人に危害を加えたという。根っこに社会への不満でもあるのか。だが異教徒をあやめることを目的にするのなら、もはや神の名を語るべきではない▲「もろびとを一つにする創始者よ」とタゴールは歌ってもいた。新しい国の創始者の下に、あらゆる宗教を信じる者たちがはせ参じる世界。独立国のあるべき姿だったのだろう。寛容を尊ぶ国柄を望んだ詩聖の言の葉を、いま一度拾い上げたい混濁の世である。

(2016年7月4日朝刊掲載)

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