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社説・コラム

天風録 「銃を歴史の「断片」に」

 銃身が溶かされ女性の体に化けている。手に持つハンドバッグは何と弾倉だ。年初に神戸で「大英博物館展」をのぞき、印象に残ったのがアフリカ・モザンビークのオブジェ。銃器で作られた母、と題される▲16年に及ぶ内戦で700万丁の武器が残された国。平和が訪れると、銃はミシンや農具と交換してもらえるようになり、芸術家はしるしとして母の像を残した。銃が文字通り、歴史の断片と化すことを願ったのだろう▲ところが内戦でもないのに、推定3億丁の銃がはびこる大国がある。ついには街中で警官と狙撃犯の銃撃戦も起きた。警官による相次ぐ黒人射殺事件が引き金である▲その犠牲者の母親は「止められたら、どこでどんな時でも従って、従って、従いなさい」と言い聞かせていたという。誰もが銃を持てる社会だから疑心暗鬼になる。免許証を出そうとして撃たれた、なんてむごすぎる▲<希望は複雑な色をしている>と谷川俊太郎さんの詩にある。<ブルースの青にまじる褐色の皮膚>もそう。米国の黒人解放運動は非暴力を旨としてきた。警官を葬るのではなく銃を葬る方に正義がある。モザンビークの「物々交換」を全国民が知るといい。

(2016年7月10日朝刊掲載)

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