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社説・コラム

社説 改憲勢力3分の2 「政権信任」とおごるな 参院選

 きのう投開票された参院選の結果、自民党と公明党、おおさか維新の会など憲法改正に賛同する勢力が衆院に続き、国会発議に必要な3分の2以上に達した。日本政治にとって、大きな分岐点となるかもしれない。

 安倍晋三首相は自らの任期中での憲法改正に意欲を見せ、この秋の臨時国会から衆参両院の憲法審査会で、与野党で憲法改正の具体的な議論が始まることを期待する発言をしていた。

 ことし公布70年。初の憲法改正の是非を問う国民投票が現実味を帯びるのは間違いない。それだけ重要な選挙が、低投票率にとどまったのは残念だ。

 選挙戦では与党として憲法改正を争点化せず、真正面から有権者に問うことをしなかった。首相自身も、ほとんど口にしなかった。代わりに訴えたのは自らの経済政策アベノミクスを継続するかどうかである。

 自民党の谷垣禎一幹事長は与党勝利を受け、「改憲が支持されたと受け止めるのは困難」との認識を示した。その通りだ。有権者も改憲に「白紙委任」したわけでない。これで信任を得たとばかりに、安倍政権が改憲勢力だけの理屈で強引に前に進めることは許されない。

 思えば過去2回の国政選挙もアベノミクスを前面に出した。ところが選挙後に待っていたのは、特定秘密保護法や安全保障関連法制の成立だ。選挙に勝ったとたん、国民の多くが不安を感じる政策を強行する。同じ手法を繰り返していいのか。

 与党からは参院の「合区」解消や大災害時に国会議員の任期延長を認める項目の新設など改憲の具体論が出ている。まずは政権与党として憲法のどこをどう変えるのか、具体的かつ明確に国民に示す責任があろう。

 仮に憲法審査会で議論を進めるとしても幅広く賛同を得ることが重要になる。改憲に反対する党の意見も十分に反映すべきであり、平和主義の根幹となる憲法9条はなおさらのことだ。

 首相に求められるのは数の力におごらない謙虚な政権運営である。憲法に限らない。アベノミクスにしても有権者が全面的な信頼を寄せたというより、政治の安定を求める消極的支持という側面もあるのではないか。

 焦点の消費増税延期の財源を具体的にどうするかも結局、論戦が深まらなかった。不安に感じた国民も多いに違いない。

 政権は選挙後にデフレ脱却を後押しする経済対策をとりまとめる方針だが、英国の欧州連合(EU)離脱問題や円高などで経済の先行きは不透明感を増す。このままでは税収の下振れを招いて大型の補正予算を組むには財源不足となろう。経済財政が難局を迎える中で、選挙で寄せられた国民の声にしっかり向き合っていく必要がある。

 むろん野党の責任も大きい。与党圧勝の背景には野党側の力不足がある。32の1人区で進めた民進党や共産党など4党の共闘も限界があり、政権批判を繰り返すだけでは有権者の共感は思ったほど広がらなかった。

 とりわけ野党第1党の民進党は、改選議席から大きく後退した。選挙結果を厳しく検証し、抜本的な立て直しが急務だ。

 野党が存在感のないままでは議会制民主主義は正しく機能しない。「自民1強」の色合いがさらに鮮明になる国会で果たす役割はこれまで以上に重い。

(2016年7月11日朝刊掲載)

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