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緊急連載 3分の2の意味 2016参院選 <上> 改憲 与党は争点にせず

 衆院に続いて、参院も憲法改正に賛同する勢力が国会発議に必要な全議席の3分の2を占める。改憲の動きは脈打ち始めるのか。私たちの選択がもたらした参院選後の風景をみる。

世論 9条改正には慎重

 投開票から一夜明けた11日朝。広島選挙区で4選を果たした民進党の柳田稔氏(61)は広島市安佐南区の自宅前で報道陣に漏らした。「改憲勢力が3分の2を超えてしまった。国会運営が大変なことになる」

 数時間後、国会近くの自民党本部。記者会見した安倍晋三首相(同党総裁)は「民進党が議論に参加しないのは建設的ではない。未来のため、どの条文を変えるのか、憲法審査会で議論が成熟することを期待する」。秋の臨時国会で具体的な条文議論に入る意向をあらためて示した。

投票で重視 10.1%

 中国新聞社が広島県内で実施した参院選の出口調査では、比例代表の投票先を選ぶのに最重視した政策・争点は「景気・経済対策」が36・0%と最も多く、「憲法改正の是非」は10・1%にとどまった。与党に投票した人に限ると、自民党3・9%、公明党3・0%とさらに下がる。

 「やっぱり日々の暮らしに直結する政策に目がいく」。広島市安佐南区の会社員女性(25)はアベノミクスに期待して比例代表で自民党に1票を投じた。一方で「改憲を許したわけではない」とくぎを刺す。「与党の主張はほとんどなかった。憲法の問題はもっと議論を深めないと」

経済政策 前面に

 参院選では、民進党、共産党、社民党、生活の党の野党4党が全国32の1人区で統一候補を立て「憲法9条改正の是非が最大の争点」と訴えて共闘した。自民党はアベノミクスを前面に出し、参院選公約の最後に憲法改正を載せたものの「9条」の表記はなかった。与野党の議論は最後までかみ合わなかった。

 中国新聞社が広島県で3~5日にした電話世論調査では、改憲、特に9条改正に慎重な姿勢が目立った。憲法9条改正について「反対」(35・8%)と「どちらかといえば反対」(14・4%)が計50・2%。支持政党別でも自民党で計38・1%、公明党で計48・3%。改憲勢力の一つ、おおさか維新の会で計52・4%に上った。

 与党は今回と同様に2014年の衆院選で経済政策を前面に出して大勝。その後、選挙戦であまり語らなかった安全保障関連法を成立させた。憲法改正に反対する人の間に、安倍政権がそうした手法を繰り返すのではとの懸念が強まる。

 柳田氏が自宅前で報道陣に危機感を漏らした同じ頃。柳田氏の倍以上の57万票近くを集めてトップ当選した、自民党の宮沢洋一氏(66)も福山市のホテルで報道陣の質問に答えていた。「3分の2を確保したからといって、やみくもに急ぐべきではない。野党とのしっかりした議論が必要だ」

(2016年7月12日朝刊掲載)

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