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社説・コラム

社説 1強政治と民意 丁寧に合意形成を図れ

 内需の下支えへ、総合的かつ大胆な経済対策を実施する―。与党が大勝を収めた参院選から一夜明けたきのう、安倍晋三首相は自民党本部で記者会見を開き、力を込めた。

 秋の臨時国会に備えて来月上旬にも内閣改造、党役員人事に着手する構えだ。「参院選で約束したことを実行する力強い布陣をつくる」とも語った。

 4回の国政選挙に勝利し、強固な政権基盤を築いた。「1強政治」のもと信任を受けたとするアベノミクスをはじめ安全保障政策、さらには憲法改正まで「数の論理」によって押し進めるのではないか。そんな懸念も指摘される。

 だが、あらゆる政策が支持を得たとはいえまい。地域によって政権にノーを突き付けた選挙区もあることを忘れてはならない。与党候補が4野党統一候補と正面から対決した32の1人区では11選挙区を落とした。首相が終盤、重点区と位置づけて応援演説に入った青森や新潟などで敗北を喫したのも少なからずショックのはずである。

 政権として選挙全体の数字を見て過信するのではなく、こうした民意を政権運営においても念頭に置くべきではないか。

 特に現職閣僚がそれぞれ落選の憂き目を見た沖縄と福島は、象徴的といえよう。

 島尻安伊子沖縄北方担当相は米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対する無所属新人に10万票以上の大差をつけられた。基地問題よりも経済振興を中心に訴えたが、米軍属による女性暴行殺害事件などで反基地感情を深める県民に一向に響かなかったのは無理もない。「新基地を押しつける安倍政権への怒りが広がった」。当選した新人はそう有権者の思いを代弁した。

 6月の沖縄県議選に続く与党敗北である。県民の思いに政権は今度こそ真剣に向き合う必要があるのではないか。

 福島第1原発事故の被災地の福島選挙区も政権にとって逆風となった。改選数が2から1に減り、岩城光英法相が「引き続き復興を任せて」と訴えたが、民進党現職に及ばなかった。

 5年たっても復興は遠い。その上に古里を追われたままの住民の苦労や心情をよそに、原発再稼働に前のめりな政権の姿勢が響いたのかもしれない。

 その点を考えれば、同じ日に投開票された鹿児島県知事選で「川内(せんだい)原発の一時停止」を訴えた新人が、再稼働を容認した現職を破ったことも見逃せない。  来る臨時国会は経済対策や憲法を巡る与野党の議論に加え、通常国会から積み残した環太平洋連携協定(TPP)の承認も焦点となろう。

 とはいえ、これも選挙結果を見る限りは承認ありきの政権の姿勢が全面的に支持されたとは思えない。コメ作りなど農業を主産業とする東北地方では厳しい審判が下され、与党候補の当選は秋田選挙区のみにとどまったことの意味は重い。

 選挙戦を振り返ると憲法改正だけではなく、与党側が踏み込んだ言及を避けた政治課題が多かった。そのことを国民も十分に承知していよう。つまり今回の参院選の結果は、政権が進めるあらゆる政策にOKを出したわけではないことを首相に念押ししておく。大勝に浮かれることなく合意形成を丁寧に図る姿勢が1強政治に求められる。

(2016年7月12日朝刊掲載)

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