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社説・コラム

『書評』 核兵器をめぐる5つの神話 核神話へ反論本 出版

原爆で降伏決断/「抑止力」として機能… 長崎大研究者ら翻訳

 原爆投下が日本降伏の決断につながり、戦争を終わらせた。核兵器は強力だからこそ戦争を思いとどまらせる「核抑止力」として機能し、世界の平和は保たれてきた―。こうした米国での核兵器肯定論を根本から問う本「核兵器をめぐる5つの神話」が出版された。米国の「核の傘」を求める被爆国にも、新たな議論を促す内容だ。(金崎由美)

 米国の核軍縮専門家、ウォード・ウィルソン氏の著作の日本語版。長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)=長崎市=の双書として、RECNAの研究者やジャーナリストたちが翻訳に携わった。

 ウィルソン氏は、核兵器が過去も現在も有用だとする主張を5項目に分類。歴史資料や公文書から検証して、いずれも「神話、誤解、誇張、そして誤りに基づいて作り上げられている」と断じる。

 例えば、原爆が太平洋戦争を終わらせたという「神話」。日本の戦争指導者の議論や当時の米政権中枢の証言を基に、ソ連(当時)の宣戦布告の方が決定的だったとする。

 核兵器の「抑止力」については、核使用の一歩手前に至った1962年のキューバ危機の経過などをたどり、「代償が高いと理解していても戦争に突入した例は枚挙にいとまがない」と指摘。核抑止力は、依存を断ち切るべき対象というより、存在自体を疑うべきものだと気付かされる。

 オバマ米大統領が5月に広島を訪れ、「(核保有国は)恐怖の論理から脱し、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」と説いたばかり。日本語版を監修したRECNA顧問の黒沢満・大阪女学院大教授は「日本でも『神話』に基づいた議論がされがち。道徳的な側面とともに、理性的な側面から核兵器廃絶の方向性を論じるための視点を知ってほしい」と話す。A5判、173ページ。2700円。法律文化社刊。

(2016年7月12日朝刊掲載)

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