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社説・コラム

社説 南スーダンPKO 陸自の撤退ためらうな

 アフリカの南スーダンで大統領派と副大統領派の内戦が再燃している。国連安全保障理事会のほか双方のトップが戦闘停止を求めたが、沈静化するかどうかは予断を許さない。同国で国連平和維持活動(PKO)に参加する日本にとっては1992年のPKO協力法成立以来、最も危機的な事態といえよう。

 日本政府は在留邦人を保護するため、航空自衛隊の輸送機派遣と、南スーダンに展開している陸上自衛隊による空港までの陸上輸送を組み合わせた退避作戦を計画している。PKO協力法に基づく任務で、これまた前例のないケースに違いない。

 紛争地のPKOは危険を伴う。そのため自衛隊の派遣には当事者同士の停戦合意の成立を含む「PKO参加5原則」を満たす必要がある。これが日本のPKOを憲法9条の枠内にとどめるための重要な歯止めだ。

 南スーダンでも2011年の陸自の派遣決定当初は武力紛争が収まり、停戦合意の条件は必要ないと説明された。しかし、現状はどうだろう。今月7日以降の戦闘で死者が300人近くに達している現実は、停戦合意の条件から既に逸脱しているのではないか。

 おとといは陸自宿営地近くでも銃撃戦があった。避難民キャンプ近くでヘリコプターがロケット弾を発射するなど激しい交戦があったとも伝えられる。

 そう考えると中谷元・防衛相が「発砲事案の発生でPKO参加5原則が崩れたとは考えていない」として陸自派遣を続けると早々に表明したのは理解に苦しむ。邦人の退避は明らかに停戦合意の行き詰まりが背景にあり、説明には矛盾があろう。

 宿営地がある国連施設内には国内の数百人が避難しているという。避難民に危害が加えられた場合、陸自が戦闘行為に加わる局面も起こり得よう。日本政府はPKOの前提が崩れかねないことを十分に認識し、邦人が国外退避した後は陸自の撤退もためらうべきではない。

 この問題が重要なのは3月に施行された安全保障関連法の運用とも関係するからだ。武装集団に襲われた国連職員などを自衛隊員が急行して助ける「駆け付け警護」や宿営地の共同防衛など新たな任務のことである。正当防衛などに限っていた隊員の武器使用基準を緩和したことによって可能となった。

 南スーダンでは第7師団(北海道千歳市)を主力とする10次の施設部隊約350人が首都ジュバで活動している。政府はかねて、次の11次隊への交代に合わせて新任務を付与しようとしてきた。参院選への影響を避けるため、選挙戦が終わるまではあえて封印してきたと言ってもいい。それだけ世論の反発も噴出しかねない案件であろう。

 さすがに事態の急展開に驚いたのだろう。菅義偉官房長官は「要否も含めて政府内で慎重に検討を進めたい。特別急ぐことは考えていない」と慎重な物言いをした。もはや新任務の付与どころの話ではあるまい。

 平和憲法の下で日本がPKOに参加する以上、派遣部隊が人命を損なうことも損なわれることも避けなければならない。この事態を機に、5原則堅持を誓うとともに「駆け付け警護」などは運用を凍結すべきだ。「他国並みにする」という発想にとらわれるのは極めて危険だ。

(2016年7月13日朝刊掲載)

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