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社説・コラム

天風録 「ドームの告発」

 夏の風が心地いい。ふわり鳥になったよう。原爆ドームの横にお目見えした「おりづるタワー」を訪れ、高さ約50メートルの展望台から平和記念公園を一望した。見慣れた広島の街がいつもと違って見える▲上から見たドームの姿に胸打たれた。がれきの中でやっと立ち、鉄骨で支えられる様子もはっきりと分かる。「この地でしか伝えられない哀しみ」。タワーの壁面に示された言葉は重い▲広島を訪れたオバマ米大統領もドームをじっと見つめた。あの日、決意を固めたのか。核兵器の「先制不使用」を検討していると米紙が伝えた。相手国への反撃時を除いて使わない、と▲実現への視界は晴れているわけではなかろう。大統領選を前に「強い米国」を求める世論も根強い。今なお核ミサイルは常に臨戦態勢にある。それでも「核兵器なき世界への道筋をつけたい」という大統領の熱意の表れだとすれば、喜ばしいのだが▲71回目の8月6日が迫る。きのう平和記念式典の概要が発表された。核保有国の英仏の参加は決まったが、米国はまだ返事がない。「先に使わない」の先の「永遠に使わない」決意を―。物言わぬドームの叫びが廃絶を目指す風を巻き起こしてほしい。

(2016年7月13日朝刊掲載)

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