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社説・コラム

天風録 「赤い舌」

 爆食、爆買いに通じるものがあるのだろうか。あれもこれもわが物とする中国の姿勢である。南シナ海のほぼ全域で主権を唱え、その範囲は牛の舌のような形。「赤い舌」がフィリピン、ベトナムなど周辺国の鼻先をなめる▲サンゴ礁を埋め立てて人工島に。施設や滑走路を整えて、軍隊の配備も進める。他国の漁船を追い出し、実効支配を強める。やりたい放題に対して国際裁判がついに判断を下した。中国の主張に法的根拠などなし、と▲習近平指導部は即座に激しく反発した。判決を「ただの紙くずにすぎない」「法律の衣をまとった政治的な茶番劇だ」と舌鋒(ぜっぽう)鋭くなじったことこそ芝居じみる。対抗するように人工島で民間機の試験飛行までしてみせた▲「法に基づく統治」を当の習氏も打ち出していたはずだ。だが舌の根も乾かぬうちに国内では人権派の人たちを数多く連行し、今も20人以上を拘束したまま。そして国際的な法治も無視するなら、羊頭狗肉(くにく)も甚だしい▲中国の空気も同じか。街頭取材で若い女性が「解決できなければ武力行使もやむを得ない」と答えたのは驚いた。舌は禍(わざわい)の根ともいう。世界のリーダーを名乗るつもりなら引っ込めた方がいい。

(2016年7月14日朝刊掲載)

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