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社説・コラム

社説 南シナ海と中国 司法判断の尊重は当然

 あるいは世界情勢の行方にも関わる司法判断といえる。国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所が南シナ海の主権を巡って中国と対立するフィリピン政府の訴えを全面的に認め、中国側の主張をことごとく退けた。

 不服申し立てはできず、確定判決に当たる。中国も習近平国家主席の威信を傷つけかねない敗北に衝撃を受けていよう。

 「九段線」という独自の境界線を持ち出し、南シナ海のほぼ全域をわが物だとするのが中国の言い分である。歴史的な根拠があると主張するものの、普通に考えれば無理がある。それに基づく領有権主張や埋め立て、人工島建設がいかに国際秩序に反し、アジアの海に緊張をもたらしてきたか。仲裁裁判所が、中国の主権の根拠はないと一切認めなかったのは当然だろう。

 具体的な焦点である南沙諸島に関する指摘も厳しい。条約によれば中国の手による岩礁や暗礁の埋め立てでは排他的経済水域(EEZ)を設定できないと指摘し、その行為はサンゴ礁などの環境破壊だと断じた。これは日本がEEZの基点とする東京都の沖ノ鳥島などとも関係してくる重い解釈である。

 国際法上は罰則こそないが、結論に従う義務を中国は負う。世界の大国として国際協調をまず考えるべきであり、ルールに基づく司法判断を尊重すべきなのは言うまでもない。だが仲裁裁判所の決定に先立って「従わない」と予防線を張った上に、「判決は紙くず」と主張を全く変えない姿勢は理解し難い。

 国内の不満が指導部に向かうのをそらすためだろう。軍事的に緊張関係にある米国に対して関係悪化を望まないというシグナルを送る一方、尖閣問題で対立する日本の意向が今回の司法判断に反映された、として批判の矛先をわが国に向け始めた。お門違いというしかない。

 むろん現実的には中国が海洋進出と覇権の野望を簡単に捨てるとは思えない。さまざまに既成事実化を図りつつ、国際的孤立を避けるため近隣のカンボジアをはじめ経済協力などで親中国を増やして「包囲網」に対抗する構えなのだろう。問題が解決に向かうどころか、領有権に絡む国々や日米と対立が深まることは想像できる。だからこそ冷静さを失ってはならない。

 「航行の自由」作戦を展開してきた米国も、必要以上の挑発は控えるべきだ。偶発的な衝突を回避し、外交努力による平和的解決を図っていきたい。

 その点では当事国のフィリピンの政権交代が結果的に意味を持つかもしれない。ドゥテルテ大統領は仲裁裁判に訴えた前政権と一線を画し、話し合いに前向きな姿勢を示してきた。中国にしても2国間協議に持ち込んで仲裁裁判の結果を棚上げしたい意図があるのは明らかだ。

 思惑の違いはあっても当面の対話のチャンネルになり得ることには変わりはない。日米は対立をあおるのではなく、フィリピン側の真意と動向を慎重に見守ることも必要ではないか。

 同時に「法の支配」を強調する以上、日本を含む全ての国が国際法の重みを再認識することが求められる。思えば国際司法裁判所の判断に異論を唱えたケースは少なくない。それでは現在の局面で中国に自重を求め、翻意を迫るのに説得力を欠くことも肝に銘じておきたい。

(2016年7月14日朝刊掲載)

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