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連載・特集

緑地帯 ハチロクをよろしく 出山知樹 <1>

 5月27日、原爆慰霊碑のそばで演説するオバマ米大統領の姿を映像で見ていた。原爆投下から71年近くもの間、実現しなかったことが現実の光景となっている。個人的にはいろいろ思うこともあるが、この広島の地で歴史的な瞬間に立ち会い、思いを巡らせることができたことに感謝したい。

 思い返せば広島との関わりは1996年の夏、初任地の和歌山から広島に転勤が決まった時から始まる。あいさつのため広島局に電話した。先輩から「86があるから、よろしくな」。返事はしたものの「ハチロク…?」と、正直キョトンとしてしまった。原爆が投下された8月6日のことだとは、全く分からなかったのである。

 それほど自分はヒロシマのことを意識したことがなかった。いや、もっとはっきり言えば「知らなかった」。あれから今年でちょうど20年になる。

 現在、3回目の広島勤務をしているが、最初が被爆51年、2回目は被爆60年を迎える時期、今回は被爆70年と、たまたま、ほぼ節目の年と重なった。勤務年数を合わせると、もうすぐ人生で最も長く過ごした場所が広島になる。

 広島では原爆の取材を通して、多くの人に出会い、数え切れないほどのことを学ばせていただいた。今では原爆というテーマをライフワークのように思っている。

 「ハチロクをよろしく」という言葉に応えようとしてきた意識はない。しかし、この言葉はなぜか今も強く記憶に残っている。(でやま・ともき NHKアナウンサー=広島市)

(2016年7月14日朝刊掲載)

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