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「国民のため」間近に接し感謝 中国地方 見守る被災地や被爆地 

 天皇陛下の生前退位の意向が報じられて一夜明けた14日、陛下に接した中国地方の関係者からは、高齢にかかわらず全国で公務を続けられるご心情を察する声が相次いだ。

 2014年12月、天皇、皇后両陛下は広島市安佐南区の広島土砂災害の被災地を訪問。夫を亡くし、自身も重傷を負った宮本孝子さん(76)=安佐北区=は「広島だけでなく全国の被災地を訪問される姿に責任感と行動力を感じる」と話す。自宅で被災した上原月江さん(85)=安佐南区=は「年齢の割に激務」と心配する。

 同年代からは、ご体調を気遣う声が目立った。1989年、呉市であった全国豊かな海づくり大会で対面した呉市安浦町の元漁協組合長山根信行さん(82)は「80歳を過ぎると思うように体が動かない。元気なうちに交代された方がいい」。95年、尾道市御調町の高齢者福祉施設で陛下を案内した公立みつぎ総合病院の山口昇特別顧問(83)は「皇室典範ができた終戦直後と違い、今の日本は世界有数の長寿国。時代に応じたルールは必要」とみる。

 11年の山口国体の際、両陛下が訪問された山口市の保育園を運営する社会福祉法人の理事長真城信さん(38)は「陛下のご意向なら尊重するべきだ。皇后さまとの時間を大切になさってほしい」と願う。03年に島根県埋蔵文化財調査センター(松江市)で両陛下を案内した元所長の宍道正年さん(68)は「いつかまた、お二人でゆっくりと訪れていただけたら」と期待する。

 「平和を願う気持ちを行動で示し続けておられる」と話すのは竹原市に制作拠点がある陶芸家の今井政之さん(85)=京都市。文化功労者に選ばれ、皇居で陛下と面会した。広島原爆養護ホーム矢野おりづる園(広島市安芸区)で陛下の訪問を受けた被爆者の吉本ハルエさん(93)は「戦争を乗り越えて、国民のために働かれている」と感謝した。

 陛下は皇太子時代を含めて被爆地・広島市を10回訪問されている。広島大大学院の布川弘教授(日本近現代史)は「被爆地や海外の激戦地を訪ねることで戦争責任に向き合い、被災地訪問などで弱者に心を寄せてこられた」と指摘。「高齢で公務が難しくなると、憲法で規定した『国民統合の象徴』としての役割を十分に果たせなくなると考えられたのでは」と察する。

(2016年7月15日朝刊掲載)

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