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広島で軍縮外相会合 14年春 NPT会議へ議論

 政府は27日、日本が主導し、核兵器を持たない10カ国でつくる「軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)」の外相会合を2014年春に広島市で開くことを発表した。日本で初開催。15年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、被爆地で核軍縮の具体策をまとめて議論に反映させたい構えだ。(岡田浩平)

 14年5月ごろには次回NPT再検討会議の成果を挙げるため重要な最後の準備委員会が米国で開かれる。外務省はその直前に開くNPDIの外相会合を重視し、広島開催を参加国に働き掛けてきた。トルコ・イスタンブールで26日(現地時間)あった局長級会合で正式に決まった。

 玄葉光一郎外相は省内での記者会見で「唯一の被爆国、象徴的な広島で、軍縮不拡散問題の外相会合を開く意義は小さくない」と強調した。

 参加国は日本のほかオーストラリア、ドイツ、オランダ、ポーランド、カナダ、メキシコ、チリ、アラブ首長国連邦、トルコ。4月中、下旬に中区の広島国際会議場での開催が見込まれる。外相会合は通常1日で、担当者も含め5人ほどが訪れる。被爆者の証言を聞いたり、原爆資料館を見学したりする機会を設けるよう同省と市が調整する。

 NPDIは、10年5月のNPT再検討会議で合意した軍縮など64項目の行動計画を進めようと、同年9月に発足した。これまでにドイツなどで計3回、外相会合を開いている。

 一方、市はNPT再検討会議の誘致を目指している。しかし、約190カ国の代表団が1カ月滞在する同会議は毎回、米ニューヨークの国連本部で開かれており、同省は困難とみている。玄葉氏は今年2月の衆院予算委員会で「代わる何かをできないか考えている」とNPDIを開催する意向を示していた。

「核兵器廃絶に追い風」 広島市民ら歓迎

 NPDIの外相会合が2014年春、広島市で開かれることが決まった27日、広島の被爆者や平和団体に歓迎の声が広がった。市が目指す15年のNPT再検討会議の誘致に追い風になるかは不透明だ。

 広島県被団協の坪井直理事長(86)は「各国外相が原爆被害の実相に触れるのはとても良いこと。より真剣な討議が引き出され、核兵器廃絶に向けた追い風になる」と喜ぶ。もう一つの県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長(72)は「実効性ある方策が出せるか被爆地での協議に期待したい」と述べた。

 NPDI外相会合の日本開催は初めて。核兵器廃絶をめざすヒロシマの会の森滝春子共同代表(73)は「現役の外相が集まる好機。非政府組織として働き掛けを検討する」と意気込む。

 松井一実市長は「市民の思いを為政者に伝えるまたとない機会」と歓迎。NPT再検討会議の誘致に向けた訴えが「外相会合の開催を引き出した」と強調した。

 NPT再検討会議は加盟約190カ国の代表団が1カ月にわたり滞在する。広島誘致は困難、との見方が政府内には強い。玄葉光一郎外相は外相会合を「代案」と位置付けるが、松井市長は「誘致活動は続ける」と話した。(田中美千子)

【解説】 被爆地の訴え欠かせぬ

 非核兵器保有国10カ国でつくるNPDIは、「核兵器のない世界」への道筋としてまず「核リスクの低い世界」を目標に、現実的な提案、行動を目指すグループだ。2年後に決まった広島市での外相会合に向け、より積極的な核軍縮へ向かうよう被爆地からの訴えが欠かせない。

 参加国は、日本同様に米国の核の傘の下にある北大西洋条約機構(NATO)メンバーから、核兵器禁止条約を求めて「急進的」とされる非同盟諸国(NAM)まで幅広い。両極とのバランスを取りつつ、国際社会の軍縮議論を主導するのが日本の狙いだ。発足の経緯に詳しい藪中三十二・前外務事務次官は「国際世論をつくる一つの力」と期待する。

 ただ、これまでの実績は、「軍縮の前提条件」となる核弾頭数や運搬手段などの報告様式案をまとめたぐらい。核保有国から特段の反応はない。国内の反核団体からは「核兵器廃絶を急ぐ気がない」と「現実的な行動」への不満の声も根強い。

 国内外で存在感を増すには、廃絶への具体的道筋を示すなど被爆国の主導で踏み込んだ姿勢を示す必要がある。被爆地を挙げて、2年後に「核兵器のない世界」を引き寄せる議論を今から後押ししたい。(岡田浩平)

(2012年4月28日朝刊掲載)

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