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社説・コラム

社説 南仏ニースでテロ 行楽客に牙をむくとは

 花火見物の帰りがけに、これほどの惨劇が待っているとは誰も思わなかっただろう。

 フランス南部のニースで、革命記念日の花火大会に訪れていた群衆の中に、大型トラックが突っ込んだ。犠牲者は80人以上を数え、重軽傷を負った人も多数に上っている。

 過激派組織「イスラム国」(IS)にパリが襲われた昨年11月の同時テロ以来、フランス全土では非常事態宣言が発令されてきた。そのさなかの凶行である。加えて世界に名だたる保養地を狙われた現地の衝撃は、察するに余りある。

 時あたかも2日前、オランド仏大統領が非常事態を今月末に解除する方針を打ち出したばかりだった。フランス各地で今月10日まで繰り広げられたサッカー欧州選手権も大過なく終わり、一息つこうとしていた頃合いだったに違いない。その鼻を明かしてやると言わんばかりの犯行にも受け取れる。

 大型トラックを運転し、射殺された男は単独犯だったのか、あるいは何らかの組織から指示を受けていたのか。動機や背後関係も含め、事件の真相解明を急いでもらいたい。

 現場となった海岸通りでは、花火を見終わって帰路に就く市民が列をなしていたという。その通りを大型トラックが猛スピードで約2キロにわたって突っ切り、なぎ倒すように行楽客をはね飛ばしたとの目撃証言もあるようだ。

 警戒を強めた首都パリから離れた、地方のリゾート都市で不備を突かれたといえる。

 同じような花火大会が今月4日、独立記念日を迎えた米国のニューヨークでも開かれている。こちらは会場に5千人以上の警官を張り付け、過去最大規模の厳戒態勢を敷いた。手荷物検査を兼ねた検問はもとより、ライフルを手にした重武装の警官が行き交い、放射性物質を探知するチームまで出動する周到ぶりだったという。

 フロリダ州のナイトクラブで起きた銃乱射事件や邦人7人が巻き添えで亡くなったバングラデシュの飲食店銃撃など、内外で相次ぐテロを受け、念には念を入れたのだろう。

 球技場やショッピング施設といった、警備の緩やかな標的は「ソフトターゲット」と呼ばれる。パリ同時テロでも、理不尽な暴力は劇場やレストラン、国立競技場に向けられた。

 市街地で、何の罪もない市民が巻き添えにされるテロの時代に入っていることを、あらためて認識せざるを得ない。

 目下、最大の懸念は開幕まで1カ月を切ったリオデジャネイロ五輪だろう。観光客や市民であふれる競技場や周辺の街は、格好の「ソフトターゲット」だからである。

 ブラジルの現地メディアは先ごろ、ISのブラジル人メンバーがフランス人選手団を襲うテロ計画の情報をフランスの情報機関がつかんでいると報じた。そうした情報は可能な限り、参加各国とブラジル当局との間で共有し、テロの芽を摘み取るべきではないか。

 今回の事件で、オランド大統領は非常事態を3カ月延長する意向を示した。治安対策の抜本的な見直しが、待ったなしで迫られよう。テロの根絶が、言うほど簡単にはいかないことを私たちも心しておきたい。

(2016年7月16日朝刊掲載)

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