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連載・特集

緑地帯 ハチロクをよろしく 出山知樹 <3>

 原爆ドームの模型を作りながら被爆の実態を学んでいった高校生たち。その様子を見ていた顧問の先生は、あることを思いついた。模型作りを海外の子どもにも呼び掛けてはどうかというのである。

 1997年、ちょうど前年に原爆ドームが世界遺産に登録されたばかりだった。先生は、つてのある海外の学校へ手紙で呼び掛けた。すると、トルコ、スリランカ、ザンビア、ロシア、チェコなどから、自分たちで作ったドームの模型や絵の写真が届いた。

 その一つ、チェコの学校から、生徒同士で交流したいと申し出があり、何人かの生徒と先生が休みに自費で現地を訪れることになった。私も取材で同行した。首都プラハに近い街の学校で大きな模型を見せてもらったり、プラハ歴史地区を案内してもらったりと、現地の人と楽しい時間を共有した。

 一人の高校生が呼び掛けた模型作りが、こんなことにつながるとは思ってもみなかった。その時、同行した先生とふとこんなことを話した。

 ある街に飛行機で飛んでいく。爆弾を落とすために。その街には自分が知っている親切な人たちが住んでいる。一人一人の顔が浮かぶ。その上に爆弾を落とすことができるだろうか…。実際に人に会い、お互いを知ることがいかに大切であるかを実感した。

 被爆当時、産業奨励館だった原爆ドームは、チェコの建築家ヤン・レツルが設計した。2009年、オバマ米大統領が「核兵器のない世界」を目指すと演説したのもチェコのプラハだった。不思議な偶然だと感じている。(NHKアナウンサー=広島市)

(2016年7月16日朝刊掲載)

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