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オバマ米大統領を迎えた夏 原爆投下国のまなざし <下> 核なき世界

軍縮の使命感 前面に 具体策控え「溝」免れる

 オバマ米大統領が来年1月の退任までに新たな核政策を決める見通し―。10日、米国発のニュースが世界を駆け巡った。

 最大の焦点は、核兵器の役割をさらに限定し、核攻撃に対する反撃のみに使う「先制不使用」を宣言するかどうか。その方向に傾けば、核抑止力低下につながるとの批判が国内で巻き起こるのは必至だ。

訪問の成功優先

 先立つ6日、ホワイトハウス。「われわれは常にプラハ演説で示した課題を実行する方法を検討し続けている」。国家安全保障会議のウォルフサル軍備管理・不拡散担当上級部長は強調した。

 「核兵器なき世界」を掲げた2009年4月のプラハ演説では、宣言には直接言及していない。が、ウォルフサル氏は中国新聞の取材に、宣言が新たな核政策の選択肢であることを否定せず、含みを持たせた。

 ただ、オバマ氏は5月の「ヒロシマ演説」で軍縮の具体策に一切触れなかった。新たな政策を説明する場にしない、との自らの判断だった。

 広島では安倍晋三首相が同行した。具体策に触れるなら、日本政府に配慮し、米国が差し出す「核の傘」を保証することや北朝鮮の核開発への非難も盛り込まざるを得ない。歴史的訪問を成功させるには具体策に踏み込まない方が得策だ、との計算がオバマ氏周辺にあったようだ。

 ウォルフサル氏は核問題に長く携わっている。核の傘に安全保障を頼りながら「核兵器なき世界」を支持する日本の立場を理解した上で、広島訪問に関し「日米同盟だけでなく、核兵器の役割を減らすというビジョンのためにも訪問がプラスになると判断した」と打ち明けた。

 具体策を欠いたことは結果的に、核兵器廃絶の手だてを巡る米国と被爆地との間の深い溝を覆い隠した。米国は安全保障に目配りしながら幅広い関係国の参加を得て段階的に軍縮を進める道に固執する。これに対し、被爆者や広島市は、多くの非保有国と歩調を合わせ核兵器の法的禁止の実現を訴えている。

「保有国の勇気」

 では、オバマ氏は何を発信しようとしたのか。スピーチライターのローズ大統領副補佐官は「広島訪問から導き出される、軍縮追求という道徳的使命を語ること」と言う。オバマ氏は、今を生きる者の選択次第で「広島と長崎は核戦争の夜明けとしてではなく、道徳的な目覚めの始まりとして知られる」と演説を締めくくった。

 ローズ氏自身はオバマ氏の影響を受け、核軍縮への関心を深めたという。「完全に破壊された地の真ん中に立ち、そこにいたらどうなっていたかを想像し、失われた命を考える。取り組みをさらに強めようという気持ちにさせられる」

 オバマ氏が打ち出す核兵器をなくすための次の一手を被爆者は見ている。「核を保有している国々は、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」。被爆地広島で現職米大統領として発した、自らの言葉にのっとって実行する日を。(金崎由美、岡田浩平)

≪演説抜粋≫

・私の国のように核を保有している国々は、恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない。私が生きているうちにこの目標は達成できないかもしれないが、たゆまぬ努力が大惨事の可能性を小さくする。 ・世界はここで永遠に変わってしまったが、今日、この都市の子どもたちは平和の中で日々を生きていくだろう。なんと貴重なことだろうか。そのことは守る価値があり、そして全ての子どもたちに広げる価値がある。それは私たちが選ぶことのできる未来だ。その未来では、広島と長崎は核戦争の夜明けとしてではなく、道徳的な目覚めの始まりとして知られるだろう。

 ベン・ローズ大統領副補佐官への単独インタビュー全文は、中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトに掲載します。アドレスはhttp://www.hiroshimapeacemedia.jp/

(2016年7月16日朝刊掲載)

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