×

連載・特集

緑地帯 飯舘村の母ちゃんたち 古居みずえ <1>

 福島第1原発事故で全村避難を強いられた福島県飯舘村。その地の女性たちを5年間追って映画を完成させた。タイトルは「飯舘村の母ちゃんたち 土とともに」。5月から各地で順次上映されている。

 2011年3月、私は東京都内で大きな揺れを体験した。地震が東京を直撃したと思ったら、東北地方が大変なことになっていた。

 私は島根県出身。30代後半までは都内で会社勤めし、平々凡々に生きてきた。1985年にリウマチにかかって、もう治らないと思っていたのに、1カ月後に動かなかった体が動いた時にはもう天にも昇る気持ちで、それからの人生は何でもできると思った。

 88年、写真展で感銘を受けたパレスチナの子どもたちに出会いたいと初めて現地に向かった。それから20年以上、通い続けた。アフリカやアフガニスタンなどの紛争地にも出かけ、女性や子どもの日常を取材してきた。

 ただ、国内取材はほとんどしたことがなかった。東日本大震災が起こってまもなく被災地に向かったが、どう向き合えばいいのかと模索するうち、日々が流れた。

 4月下旬、飯舘村が計画的避難区域に指定され、村民が土地を追われることを新聞で知った。「これはパレスチナだ」と思い、飯舘村に向かった。

 足を踏み入れた村は、美しい春の風景なのに、誰一人姿がない。かつてパレスチナの人たちが住んでいた村に花が咲き乱れていた光景と重なった。(ふるい・みずえ ジャーナリスト=東京都)

(2016年7月2日朝刊掲載)

年別アーカイブ