×

連載・特集

緑地帯 飯舘村の母ちゃんたち 古居みずえ <7>

 映画「飯舘村の母ちゃんたち 土とともに」に登場する菅野芳子さんと菅野栄子さんは親友だ。2011年3月11日、芳子さんは、栄子さんの家でみそ造りの相談をしていたという。その時にぐらぐらときた。外に飛び出し、道路に2人でうずくまった。

 5日後、埼玉と千葉に住む息子たちが、福島へ芳子さん一家を迎えにやって来た。芳子さんの父親は「行きたくない。みそと米があれば生きていける」と言い張ったが、息子たちの説得をしぶしぶ受け入れた。その父親は同年の6月に亡くなった。4カ月後には母親も逝った。両親を相次いで亡くした芳子さんは、無性に福島へ帰りたくなった。

 栄子さんにも会いたかった。その一心で、同じ福島県伊達市の仮設住宅の、たまたま空いていた隣の部屋に入った。それからは、2人で漫才のような掛け合いをしながら過ごす毎日だ。

 2年前、芳子さんはがんを発症。手術後数カ月は、千葉の息子の家で療養した。何の不自由もない生活だったが、飯舘村が忘れられない。少しでも村の近くに帰りたいと、息子たちを説得し、また仮設住宅に戻ってきた。

 飯舘村の芳子さんの自宅周辺は除染作業が済んだ。放射線量の数値は半分になったものの、元々の値が高いため、安心して住める状態にはなっていない。

 そんな中で国は、飯舘村全域に出していた避難指示を、一部を除いて来年3月末に解除する方針を示した。村も帰村宣言する予定だ。芳子さんたち住民たちは今、決断を迫られている。(ジャーナリスト=東京都)

(2016年7月12日朝刊掲載)

年別アーカイブ