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社説・コラム

社説 トランプ氏指名 分断回避する処方箋を

 米共和党大会で11月の大統領選に向けた党候補が正式指名された。イスラム教徒の入国禁止やメキシコからの不法移民の排除など極端な発言を繰り返す実業家のトランプ氏である。

 日本と関わりの深い超大国のリーダー候補であり、経済や安全保障でも大きな影響が予測される。今後の論戦を注視せねばなるまい。

 共和党大会ではトランプ氏を快く思わないブッシュ前大統領ら党主流派が欠席する異例の事態となった。党候補の選出方法を巡って反トランプ派代議員から抗議の声が上がり、議事が一時中断した。団結を演出するはずが、党内の深い溝を露呈してしまったといえる。このどたばたは本選まで波乱含みとなることを予感させる。

 大会で採択された党綱領にしても、党候補者の過激な主張と多くの党員が納得できる考えとをどう擦り合わせるのか、苦心した跡が見て取れる。

 トランプ氏の主張通りにしたのは、メキシコ国境への「壁建設」を盛り込み、通商政策では孤立主義とも受け取れる「米国第一」を柱に据えた点だ。

 一方、党の意見をそれなりに綱領に反映させた部分もある。米国の利益を守らない協定は拒否するとしながら、環太平洋連携協定(TPP)への直接の言及は避けた。交渉離脱を叫ぶトランプ氏と推進してきた党とのスタンスが異なるためだろう。

 「テロ支援国家」からの入国審査の厳格化はうたうが、国内外から批判の強いイスラム教徒の入国禁止は明記しなかった。

 大統領候補として指名した以上、党の責任がある。選挙戦の政策が常識的なものとなるよう本人を説得すべきではないか。副大統領候補に指名されたインディアナ州知事のペンス氏にも突っ走る候補者のブレーキ役が期待されているに違いない。

 もちろん党内の融和を図れば済むわけでもない。国内の「分断」にこそ、目を向けなくてはならない。当初は泡沫(ほうまつ)候補とみられていたトランプ氏が正式指名に至ったのはなぜだろう。

 米国で格差が広がり、中間層や低所得者層の怒りが鬱積(うっせき)していた。人々の声をすくい取る政治家がほかにいなかったからではないのか。

 しかし、トランプ氏のように誰かをののしって国民の怒りや不安につけ込むだけでは国内の分断は広がるばかりだ。

 今月に入ってから米国では銃乱射事件が相次ぐ。白人警察官による黒人殺害への反発から、黒人の容疑者が警察官を射殺した。社会の病巣の深さを思う。

 仮に選挙戦でトランプ陣営から人種や宗教への差別や偏見を助長する発言があれば、さらなる事件を誘発しかねない。必要とされているのは、分断を回避する具体的な政策である。

 民主党も25日から党大会があり、クリントン前国務長官が指名される。不法移民に市民権獲得の道を開くことや、銃販売時の規制強化を訴えるほか、指名獲得争いで競り合ったサンダース上院議員の支持層を取り込もうと最低賃金の時給15ドル(約1500円)への引き上げを掲げる。それだけで十分だろうか。

 弱い立場の国民のための政策をどれだけ語れるかが問われよう。お互いの中傷ではなく、超大国の明日への処方箋をはっきり示してもらいたい。

(2016年7月21日朝刊掲載)

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