×

社説・コラム

『潮流』 マララさんと10代の選挙

■報道部長・金森勝彦

 2014年に17歳でノーベル平和賞を受けたマララ・ユスフザイさんのスピーチを思い出した。

 「なぜ戦車をつくるのは簡単で、学校を建てるのは難しいのでしょう」「この賞は変化を求めながら、声を上げられない子どもたちへの賞なんです」。オスロの授賞式で大勢の観客を前に、平和への思いを堂々とアピールした。

 先の参院選。日本では18、19歳に初めて選挙権が与えられた。なにも最年少でノーベル賞を受けた少女と、この国の若者を比べるつもりはない。

 ただ、心配された投票率は50%を割り込み、全体よりも10ポイント近く低かった。同時代を生きる彼女のメッセージがどのように響くのか、気にはなる。

 マララさんはパキスタン北部、スンニ派の家に生まれ、2012年、中学から帰宅中のスクールバスでイスラム過激派の男たちに銃撃された。頭部と首に銃弾を受けたが、奇跡的に回復し、ひるまずに女性への教育の必要性や平和を訴え続ける。銃弾では自分の行動は止められないと気丈に振る舞い、世界中から称賛された。

 昨年、この国の若者たちにも行動の兆しはあった。安全保障関連法に反対し、国会前に大挙集まった。ラップに乗せて政権を批判、軽妙なスタイルが時流にも乗った。ただ、そのグループの願いはかなわず、参院選後に解散を決めた。

 子どもの6人に1人が貧困状態にある。そんな国に住みながら、変革を求める声はなかなか上がらない。参院選では10、20代の多くが政権を担う自民党に投票した。不安や不満の受け皿は、どこにあるのだろう。

 今なお身の危険にさらされるマララさん。今月、19歳の誕生日を迎えた。

(2016年7月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ