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被爆伝えるカンナ・アオギリ・ムクゲ… 花木に感じた「継承の力」

 慶応義塾大(東京)の通信教育課程文学部を今春卒業した廿日市市出身の主婦黄節美さん(67)=写真・東京都世田谷区=が、被爆の記憶を伝える広島の花や樹木について卒業論文をまとめた。惨禍に耐えて芽吹く姿に力づけられた市民。ひろしまフラワーフェスティバル(FF)にも触れ、花木の持つ「継承の力」に期待を寄せている。

 中学生時代に東京へ移り住んだ。2006年に同大へ入学。卒論は広島市民が花と関わり続ける理由を求め、焦土に咲いたカンナとキョウチクトウ、被爆アオギリ、韓国人原爆犠牲者慰霊碑(中区)そばのムクゲ、FFに焦点を当てた。

 10年8月と11年5月、市内で被爆者たちを取材した。被爆アオギリの下で自らの被爆体験を語り続けた生前の沼田鈴子さんも訪ねた。心を動かされた市民たちがアオギリに希望を込め、種子や苗を国内外に広めている活動に触れ、「平和の種を世界にまくという沼田さんの使命を、誰もが自発的に引き受けている」と分析した。

 黄さんは、被爆によって人生をむしばまれた親族の姿を間近に見てきた。昨年初めてFF会場に足を運び、「被爆地の暗く重い廃虚の記憶が希望のイメージに変わり、救われた」と振り返る。

 卒論では、市民が育てた花で会場を飾り、祭りを支える姿から「花を平和の象徴とする精神が原点にある。平和を後世に伝える祝祭」と位置付けた。

 被爆者の高齢化が進む中、「焦土に咲いた花や被爆樹木を共有の財産として保存し、次世代に伝えることが大切だ」と結んだ。花木を見るたび被爆の記憶が呼び覚まされ、平和を願う輪がきっと広がる。そう信じている。(野田華奈子)

(2012年5月2日朝刊掲載)

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