×

連載・特集

緑地帯 ハチロクをよろしく 出山知樹 <7>

 忘れられない被爆者の言葉がある。ラジオ番組の制作のサポートに入った時に先輩がインタビューした広島の被爆者、佐伯敏子さん(96)の言葉である。

 佐伯さんは、7万体といわれる遺骨が納められた原爆供養塔周辺の清掃を続けながら、なぜ戦争が起こったのか、なぜ自分たちがこんな目に遭わなければならなかったのか、問い続けてきた。

 佐伯さんは当初、「軍や政治家、学校の先生、年上の大人たち、命令を出した人、皆が悪い。自分はお国のために一生懸命やっただけ」と考えていたという。

 しかし、納得できずに考え続け、ついに思い至った。「自分が本気でものを言おうとしなかった。知らないのに知ったふりをしていた。思うたことをはっきり言える人でなかった」。原爆の惨禍を繰り返さないために「これからは思うたことをはっきり言える人間になろう」と誓ったという。

 十数年前、一冊の本に出会った。著者は米国の天文学者で作家のカール・セーガン氏(故人)。その本は、UFOや未確認動物、心霊といった話を、科学的な観点からことごとく否定していく内容であった。これらの話が子どもの頃から好きだった私だが、否定される悔しさより、真実を見極める思考力に圧倒された。

 セーガン氏が伝えたかったのは、あふれる情報をうのみにするのではなく、健全な懐疑の心を持って物事を見ること。自ら見聞きし、調べることで、事実をつかむことの大切さだと思う。佐伯さんが話していたこととも通じるのではないかと感じた。(NHKアナウンサー=広島市)

(2016年7月25日朝刊掲載)

年別アーカイブ