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安全性疑問視の米海兵隊「オスプレイ」 岩国で訓練

 米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが7月にも米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備されることが明らかになった。検討されていた本州への一時駐機案は断念されたとの見方もあるが、予断は許されない。普天間に配備された後に米海兵隊岩国基地(岩国市)で運用する可能性は十分ある。(編集委員・山本浩司)

関係自治体は情報の収集を

 当初10月ごろとされていた沖縄配備が前倒しされるのは、米海軍強襲揚陸艦ボノム・リシャール(4万500トン)が4月23日、米海軍佐世保基地(長崎県佐世保市)に配備されたことと関係がありそうだ。

 オスプレイの運用に備え、本国で改修工事された。艦内の航空機整備部門を拡張するなどして佐世保にやってきた。

 軍事評論家の前田哲男さんは「オバマ大統領の太平洋重視政策の表れで、中国を強く意識している」と分析する。

 オスプレイは普天間飛行場に24機が配備される計画だ。強襲揚陸艦エセックスで運用されていたヘリ、CH46シーナイトに比べ、最高速度は1・9倍、輸送人員も1・4倍の性能を持つ。

4月に初の死者

 開発段階で4度墜落したオスプレイ。4月11日にはモロッコで墜落事故があり、米海兵隊配備後では初の死者を出した。沖縄県の仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事はその直後、「事故の多いものを町の真ん中にある普天間に持ってくるのは、いくらなんでもひどい話だ」とあらためて配備に反対する考えを示している。

 だが、既に新しい強襲揚陸艦を配備した米軍は、沖縄の県民感情を大きな課題とは見ていないようだ。

 前田さんは「新しい艦とオスプレイの組み合わせは強力。モロッコでの事故後にも米海軍省高官は、普天間への配備を計画通り実施するとコメントしている」という。

 こうした現状を考えると、米軍と沖縄の間に立つ政府・民主党が、オスプレイの飛行訓練の一部を岩国で実施するよう米側に提案する可能性もあながち否定できない。

環境審査が終了

 本州唯一の米海兵隊航空基地である岩国基地では、その周辺と中国地方の飛行ルートなどでオスプレイの環境審査が終了していることが大きな理由だ。さらに、離着陸の飛行コースを基地東側の海上を通るルートに限定することもできる。

 前田さんも「岩国の新滑走路、佐世保の強襲揚陸艦、普天間が描く三角形は以前から強固に結びついている。オスプレイが普天間に配備された後、『運用上の理由』で岩国に飛来することは間違いない」と分析する。

 一方で「沖縄の県民感情を考えると普天間配備は難しいだろう」とみるのは、岩国基地の拡張・強化に反対する広島県西部住民の会の坂本千尋事務局長。今後とも、本土すなわち岩国への一時駐機があり得ると警戒する。

 前田さんはさらに、ヘリコプターからオスプレイへの入れ替えは日米安保条約第6条にある「米軍装備の重要な変更」に該当し、日米の事前協議が必要だと指摘する。「この点については、飛来の可能性が高い岩国が声を上げる必要がある」

 オスプレイの国内配備に政府・民主党がどう対応するかは現段階では見通せない。とはいえ岩国基地、飛行ルート、訓練空域に関連する中国地方の自治体にとって、事態を静観するだけでは済まなくなるかもしれない。住民の安心・安全のために、主体的な情報収集とその共有が急務だ。


MV22オスプレイ
 両主翼に角度が変わる傾斜式回転翼(ティルトローター)があり、垂直・短距離の離着陸が可能。固定翼機並みに速く、航続距離も長い。2007年からイラクなどで実戦配備されている。開発段階で4回墜落、計30人が死亡した。

ボノム・リシャール
 米海軍が保有する8隻のワスプ級強襲揚陸艦の6番艦。全長257メートル、幅32メートル。飛行甲板ではオスプレイやヘリ、AV8Bハリアー攻撃機などを運用。上陸作戦用のエアクッション艇(LCAC)も運ぶ。就役は1998年。艦名は、駐仏米大使だったベンジャミン・フランクリンのペンネームに由来する。

(2012年5月6日朝刊掲載)

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