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社説・コラム

『潮流』 二つの遺産巡り

■文化部長・渡辺拓道

 歴史的な背景や意義が全く違う世界文化遺産、原爆ドームと厳島神社を1日で回った。同時の遺産登録から12月で20年になる広島の宝を、遠来の地方新聞社の文化部長たちに案内する機会があった。

 厳島神社と大鳥居の朱色は鮮やかだった。高潮などの被害を何度も乗り越えた回廊を歩き、海にせり出した建築の妙に感じ入る。800年以上前の姿を今に伝える建物群や宝物に、一族の繁栄を願った平家の執念や凝縮された宗教観がのぞく。

 世界遺産航路の水上バスで原爆ドームを目指す。40分あまりの船旅。距離の近さが貴重だとあらためて実感した。

 オバマ米大統領が5月、平和公園に滞在した52分間に、原爆ドームは演説などの背景の映像に刻み込まれた。永久保存のため数々の手だてを経たドームは「核兵器の廃絶と平和への願い」を発信する象徴として世界に届けられた。

 20年前、文化庁を担当し、二つの世界遺産の同時登録を記事にした。当時、地元の喜びは別にして、地域にとって「直接の実利があるわけではない」との見方が一般的だった。戦争遺産の取り扱いを巡り「登録決定は支持できない」と反対した米国の立場も思い起こす。時を経て、海外にも強くアピールできる「実利」を得たと感じる。

 個人的には、行きたい欧州の二つの世界遺産とイメージが重なる。ともに1979年登録された戦争遺跡のアウシュビッツ強制収容所(ポーランド)と、島ごと修道院のモン・サン・ミシェル(フランス)だ。広島の遺産は、この2カ所の100分の1以下の距離にある。下世話だが、外国人訪問客にとって「お得感」があると想像がつく。

 平和を発信する原爆ドームと、悠久の文化を伝える厳島神社。訪ね来る人に、どんなメッセージで価値と魅力を伝えるか。広島人が自ら考える20年の節目でありたい。

(2016年7月28日朝刊掲載)

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