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社説・コラム

社説 慰安婦支援財団の発足 「和解」へ日韓は協力を

 日韓関係のこれからを考える上で一つの節目といえよう。

 昨年末の両国政府の合意に基づき、旧日本軍の元従軍慰安婦を支援する財団がきのうソウルで設立された。その名も「和解・癒やし財団」である。

 日本政府としては8月中にも「最終的解決」をうたった合意に沿い、10億円を拠出する方針のようだ。1965年の日韓請求権協定で「補償は解決済み」という日本の主張は変わっていないが、双方の工夫で救済の動きが前に進むのは望ましい。

 朴槿恵(パク・クネ)大統領は残る任期が約1年半となり、4月の総選挙で与党が惨敗するなど政治的に苦境にある。そうした中で、曲がりなりにも財団発足にこぎ着けられた点も評価していい。

 ただ曲折が予想されよう。何より韓国内の異論である。財団は順調な出発どころか、日韓合意を批判する若者らの抗議がエスカレートしている。ソウルでの記者会見の場に押しかけ、女性理事長が催涙スプレーのようなものを男に吹き付けられて病院に運ばれる始末だ。

 ソウルの日本大使館前の少女像の問題もとげのように残る。日韓合意で韓国政府が「適切に解決されるよう努力する」と明記されたが、そのままになっている。安倍政権には撤去前の10億円拠出に慎重論もくすぶり、撤去には及び腰の韓国政府との温度差があるのは確かだ。

 その点にこだわって財団が機能不全に陥れば好転しつつある両国関係にも響く。長年の懸案である慰安婦問題の解決に向けて協力し合い、過去の歴史を踏まえた真の和解への流れを確かなものにすることは未来への責務ではないか。その意味でも、「和解財団」の役割は重い。

 さらにいえば元慰安婦は高齢化が著しい。韓国政府が認定したのは238人だが日韓合意後に6人が亡くなり、存命するのは40人という。安らかな老後を送れるよう人道的見地から速やかに対応するのは当然だ。

 財団は生存者や遺族に「癒やし金」を現金給付することや、追悼事業の実施を検討しているという。韓国の民間人が主体とはいえ事実上、両政府が深く関わっている。双方の努力なくして円滑に進むのは難しい。

 10億円が拠出されれば当面のボールは韓国に渡ることになろう。財団側によれば生存者40人の多くが新しい支援スキームに理解を示しているというが、政府間の合意を破棄し、日本に対してより強く謝罪と補償を求めよと迫る元慰安婦や支援団体に、どう納得してもらうか。

 日本側も謙虚な姿勢を忘れてはならない。北朝鮮や中国の脅威に日米韓で向き合うべきだという安全保障の観点で慰安婦問題で譲歩したという見方もある。だが事の本質はそこにあるのだろうか。過去の戦争や植民地支配を「加害」の立場からどう総括するかの問題のはずだ。

 日韓合意の中身を、あらためて思い起こしたい。軍の関与の下で問題が起きたことを日本が認め、安倍晋三首相の「おわびと反省の気持ち」を表明した。終戦71年の夏を迎え、その自覚を置き去りにして日本の政治家が歴史問題で韓国をことさら刺激する言動は控えるべきだ。

 同時に日本で働かされた元徴用工などを巡り、戦後補償や歴史的事実の評価の問題が残っていることも念頭に置きたい。

(2016年7月29日朝刊掲載)

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