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社説・コラム

『記者縦横』 12年前の記憶 もう一度

■報道部・菊本孟

 2004年10月に廿日市市上平良の廿日市高2年だった北口聡美さん=当時(17)=が自宅で殺害された事件で、広島県警が現場前の国道を逆走する不審なバイクなど、目撃情報を新たに公開した。事件発生から約12年。「何としても犯人を捕まえる」。解決への糸口を求め続ける警察官の言葉に執念を感じている。

 事件では、直後の目撃情報から県警が作成した似顔絵が広く知られている。これまでに寄せられた5千件超のほとんどが、似顔絵に関する情報だった。ところが今春、「当時は気にしていなかったが、参考になるなら」と、市民から犯人の可能性がある新たな目撃情報が入った。こつこつと続けてきた捜査の末に浮かんだ新証言。「今なお眠っている情報がある。より広い切り口で情報を求めたい」と県警幹部は力を込める。

 幹部は地域の会合などで「もう一度、ささいなことでも思い出して情報を寄せてほしい」と呼び掛ける。似顔絵にとらわれず、幅広く情報を求めたいとする方針の背景には、長い時が過ぎ、捜査がより難しくなっている現状がうかがえる。

 一方で犯人のものとみられる指紋や皮膚片は現場で採取している。容疑者が浮かべば、一気に解決に向かう可能性もある。

 新たに公開した情報には、現場から北方向に走り去る男の目撃なども含まれる。断片的なそれらをつなぐ、さらなる情報が欠かせない。多くの人がもう一度、当時の記憶をひもといてほしい。若くして亡くなった北口さんや遺族の無念を晴らすために。

(2016年7月29日朝刊掲載)

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