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社説・コラム

[広島外相会合に出席した2人 書面インタビュー] ディオン・カナダ外相/モゲリーニ・EU外交安全保障上級代表 

 主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に先立ち、広島市で4月にあった外相会合に出席した海外7人の閣僚のうち、カナダのステファン・ディオン外相と、欧州連合(EU)のフェデリカ・モゲリーニ外交安全保障上級代表が、原爆の日を前に中国新聞の書面インタビューに応じた。4月11日に平和記念公園(中区)で原爆被害に向き合った時の思いや、5月のオバマ米大統領の広島訪問の受け止めを聞いた。

ディオン・カナダ外相

オバマ氏訪問 深い意義

  ―平和記念公園で原爆慰霊碑に献花した時に、どんな思いを抱かれましたか。
 深い感銘を受けました。戦争の複雑さ、また、戦争がもたらす惨禍や破壊が思い起こされ、対立を解決し防ぐために協力することの大切さを感じました。

  ―原爆ドームを見学し、どう思われましたか。
 対照的な風景に驚きました。ドームに過去の破壊がくっきりと映し出されている一方で、私たちがいたのは、高度に発達した活気あふれる近代都市の真ん中にある平和公園だったからです。

  ―原爆資料館で特に印象に残った展示はございますか。
 子どもたちの遺品や写真が、私の心の奥底を揺さぶりました。我々は、あらゆる仕組みや方法を使って皆で協力し、とりわけ教育や人と人とのつながりによって、立ち直る力を養い、持続可能な平和や安全保障を構築しなければならないという考えが一層強くなりました。

  ―核兵器は非人道的な兵器だと思いますか。その認識は広島訪問の前後で変わりましたか。
 広島を訪問することで、核兵器の爆発が人類にもたらす壊滅的な結果は、国際社会が有効に対処できる限界をはるかに超えるものだという思いが強くなりました。カナダは、核兵器が二度と使われないようにする最善の方法は、検証可能かつ後戻りできない方法で核兵器を排除することだと考えています。

  ―広島訪問の経験を、今後、どのような行動につなげたいですか。特に平和構築や核軍縮・不拡散分野ではいかがですか。
 カナダは、核兵器のない世界を実現するための着実で実際的な行動を支持します。私は、次なるステップは、検証可能な兵器用核分裂性物質生産禁止条約の交渉を開始することだと思います。このような条約が締結されれば、兵器に爆発力を与える核物質の生産ができなくなります。地球規模でこの種の核物質などの備蓄に上限を設定できれば、その量は必ず減少し、最終的にはなくなるでしょう。

  ―オバマ米大統領の広島訪問や平和記念公園での演説内容について、どう評価されていますか。「核兵器なき世界」へ追い風になると思われますか。
 2009年4月、プラハで歴史的な演説を行って以来、オバマ大統領が核不拡散および核軍縮の進展を支持していることは明らかです。膨大な量の核兵器を保有する2大国のひとつである米国が、核兵器のない世界を目指すという目標を達成する上で主導権を発揮することは不可欠です。オバマ政権が、プラハの指針、とりわけ、包括的核実験禁止条約の批准を実現するために国内外の利害関係者に働きか掛けていることや、さらなる核兵器削減に向けてロシアと交渉しようと取り組んでいることは、核兵器のない世界に向けた積極的な動きです。

  ―今回は被爆者の証言を聞く機会はありませんでしたが、何か伝えるメッセージがあれば、自由に記述して下さい。
 被爆者の方へ。原爆による惨事に苦しみながら、それを乗り越えてきた皆様に深く思いを寄せますとともに、自らの体験を伝えているその強さを尊敬いたします。平和を願う皆様のメッセージが、核兵器がもたらす苦痛や被害を、今後ほかの誰もが経験することのないようにするために活かされるよう祈念します。

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モゲリーニ・EU外交安全保障上級代表

ドームが語る惨状 強烈

  ―原爆ドームを訪れた時、どう感じましたか。
 多くの理由で、大変強烈な経験でした。私は常に自らの中心的責務の中に核不拡散と軍縮を含めてきましたが、今まで広島を訪問したことはありませんでした。多くの文献を読み、数多の映像や写真も見てきました。しかしながら、実際に原爆ドームの前に立ち、その破壊された様子を目の当たりにするのは、全く異なる体験です。ドームの残骸を見上げ、どうやって今日まで崩れなかったのか、不思議に思います。でも、ドームは今なお、そこにあります。広島で起きたことの証拠として、また次世代にこの記憶を受け渡すために。

  ―平和記念公園で原爆慰霊碑を訪れた時の感想は。
 今回、主要7カ国(G7)が初めて広島に集いました。全世界が犠牲者を追悼し、「二度と過ちは繰り返さない」と約束した式典において、欧州を代表できたことは私にとり大変大きな光栄と名誉でした。特に忘れられない場面がありました。私たちのところに少年少女が歩み寄り、折り鶴でできた首飾りをかけてくれました。この若者たちを見ながら、私たちは皆、広島で起きたことの記憶を将来世代が受け継ぎ、風化させないようにすることが如何に重要か、気付いたと思います。過去の過ちを土台に、私たちは現在の協力と未来の平和を作り上げることができます。

―原爆資料館で特に印象に残った展示はありますか。
 ひとりの母親として、原爆投下地点のほど近くで遊んでいてその夜亡くなった、4歳(3歳11カ月)の男の子の三輪車でしょうか。

  ―核兵器は非人道的だと思いますか。訪問した後に考えは変わりましたか。
 広島に原爆を投下したパイロットは、飛行日誌に、「おお神よ、 私たちはなんてことをしてしまったのか」と綴っています。われわれ人間の良心は、これほどまでの暴力や破壊行為には耐えられないのです。しかしながら、私たちのような人間が、全人類を壊滅させることのできる武器を発明したのです。広島は私たちに、この矛盾を思い起こさせます。それは、行動を起こすことを求める促しでもあります。政策決定者は毎日、選択を迫られます。人間の最悪の本能に従うのか、それとも人としての最善の本質を培うのか、はたまた現状を看過するのか、それとも平和、軍縮、大量破壊兵器のない世界のために尽力するのか、といった選択です。

  ―広島訪問を平和構築や核兵器廃絶へどうつなげますか。
 広島外相会合でG7は、今後の道筋を示す核不拡散と軍縮に関する声明に署名しました。我々は、引き続き核拡散防止条約(NPT)の普遍化や包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効に向けた取り組みを続けます。これは、CTBTの批准と発効の加速化を目指す「CTBT賢人グループ」の一員である私にとって特に重要なことです。国際社会と国連安全保障理事会が一体となって、最近の北朝鮮による核実験に対応したことにも勇気付けられます。イランの核計画に対する歴史的な合意を受け、我々は核不拡散や軍縮について、具体的な措置に向けた勢いの維持に努めるべきです。

  ―オバマ米大統領の広島訪問をどう評価しますか。
 オバマ大統領の広島訪問は大いに象徴的だったことに留まりません。広島の演説で彼は、自身が大統領職を退いた後にも残りうる、また残されるべき展望を示しました。大統領は我々に対し、技術的進歩は、人間社会の進歩と結びついていなければならない、また、武器の殺傷能力が高まり、世界がより危険な場所になっていく中、我々はグローバルガバナンス、ルール、協力的な世界秩序の諸制度を強化する必要がある、ということを思い出させました。

 しかしながら、大統領はまた、我々の野心のレベルを引き下げてはいけないとも述べました。核なき世界という目標は実現不可能に見えるかもしれませんし、我々が生きている間に実現できないかもしれません。しかしながら、オバマ大統領が述べたように、「粘り強い努力によって、大惨事が起きる可能性を低くすることができます」。私はただただ、次期米国大統領もオバマ氏と同様の決意を持ち、ロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)やイラン核合意など、過去8年の成果にさらに積み上げをしてくれることを願っています。

  ―被爆者へのメッセージはありますか。
 数年前、自国イタリアの国会議員だったとき、被爆者の方にお会いし、そのお話を聞く機会に恵まれました。これは、一生忘れることのない経験となりました。核不拡散に関する取り組みに、いかに大きなものがかかっているのか、最良の証拠となりました。広島とその人々の物語は単なる死と破壊の物語ではありません。それはまた、復興と新たな始まりの物語なのです。失われたものに対する心の痛みは、行動への呼び掛けと、より良い未来のための希望となりました。私の希望、そして私の個人としての約束は、被爆者の方々の声が聞かれなくなっても、この記憶を消さないことです。

(2016年7月30日朝刊掲載)

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