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連載・特集

エネルギー新時代 第6部 将来に向けて 原発

核のごみ処分見通せず 受け入れ先選び難航

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分をテーマに、経済産業省が5月に松江市で開いた自治体向け説明会。島根県西ノ島町は、同省が参加を要請したにもかかわらず欠席した。浜田明博副町長は「一切受け入れるつもりはないから」と理由を説明する。

住民の反対運動

 隠岐諸島にある西ノ島町は2004年、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の誘致を検討した。しかし住民の反対運動が起こり、誘致を断念。その年、放射性廃棄物の持ち込みを拒否する条例を定めた。浜田副町長は「誘致を決めていなかったのに大きな騒ぎになった。最終処分地を決めるのは相当難しいこと」と見通す。

 政府は昨年5月、国が主導して自治体に最終処分地の調査受け入れを求める方針を閣議決定した。今年中に適性の高い「科学的有望地」を示す。自治体の理解を深めるため、経産省が5~6月に全国で説明会を開いたが、広島県内でも参加は半分程度にとどまった。

 政府は30年の電源構成比率で原発を20~22%にするため、原発の再稼働を進める方針を鮮明にする。だが、核のごみの処分地選びはこれまで文献調査にすら入れていない。最終処分の道筋を付けないまま、原発を再稼働させれば、使用済み核燃料が原発にたまり続ける恐れもある。

 「使用済み核燃料722体の確実な搬出を」。松江市の松浦正敬市長は1日、中国電力の島根原発1号機(松江市)の廃炉作業を巡り、清水希茂社長にこう要請した。さらに今後は使用済み核燃料にも課税して、早期の運び出しを求める考えだ。島根県も1号機について核燃料税を引き続き課税する方向で検討する。

 東京電力福島第1原発の事故をきっかけに国が進める電力改革。自由化で業界の競争を促進して電気料金を下げることが大きな目的だが、その中で原発をどう位置付けていくのかは曖昧なままである。

 中電は6月、25年度までの中国地方の電力需給の見通しを発表した。長期停止中の島根原発の稼働がゼロと仮定しても供給予備率は常に12%以上となり、安定供給を続けられる。

重い安全対策費

 さらに島根原発の安全対策費は4千億円を超え、どこまで膨らむか見通せなくなった。ある幹部は「コスト的なメリットがほとんど出ない水準になる」と明かす。原子力規制委員会の審査を受けている2号機が再稼働しても、電気料金は値下げしない方針だ。

 新たなリスクも浮上している。関西電力の高浜原発3、4号機(福井県)は3月、司法判断で初めて運転が止まった。全国で唯一稼働中の九州電力川内(せんだい)原発がある鹿児島県知事選で「脱原発」を掲げた新人が、再稼働に同意した現職を破ったのも、原発に厳しい国民世論を反映している。

 4月に持ち株会社制にした東京電力ホールディングス。火力部門を子会社にした一方、原子力部門は親会社に置いた。経営企画ユニットの下司知夫マネージャーは「原子力は収入の見通しが立たず、火力と同じ会社にはできない」。カンパニー制を導入した中部電力も原子力部門は独立させていない。

 中電は、電源事業本部が火力と原子力の両方を担う。20年に控える発送電分離に合わせ、原子力部門をどう位置付けるのかが課題となる。西日本の大手電力4社は4月、原発事業で幅広く提携する協定を結んだ。原発の維持が難しくなれば、事業再編に発展する可能性もある。(河野揚)

高レベル放射性廃棄物の最終処分
 日本では、使用済み核燃料の再処理で出る放射能レベルの非常に高い廃液をガラスと溶かし合わせたものが、高レベル放射性廃棄物に当たる。地下深くに埋める地層処分を国は2000年に法制化。国内には使用済み核燃料が約1万8千トン保管されており、原発での管理容量は約2万1千トン。

(2016年7月30日朝刊掲載)

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