×

ニュース

大内人形 筆に込める平和 入市被爆の小笠原さん 山口で来月 初の個展

 目尻の下がった愛くるしい大内人形。山口市道場門前の大内塗職人、小笠原貞雄さん(89)は、表情をつくる筆を入れるたびに「平和があってこそ」とかみしめてきた。18歳の時、広島で入市被爆した体験を原点に、積み重ねてきた手業と信条を伝える個展を8月、地元で初めて開く。

 大内人形は丸みを帯び、穏やかにほほ笑む。惨状を目の当たりにした小笠原さんにとって、人形は「心の支え」だ。表情は作者の心を映す。「暗い気持ちでは描けない」と前を向くことが、夢にうなされた日々の癒やしになったという。

 原爆投下の翌日、出張先の三次から陸軍被服支廠(ししょう)(現広島市南区)に向かい、救護に当たった。苦しむ人を治療できず、遺体を焼き続けた。8月末、親類の大内塗職人を頼って山口市へ。高齢の両親を養うため、ミシン修理もしながら腕を磨いた。

 あれから71年のことし6月、同支廠跡を再訪した。「良いことが一つもなかった」建物で、手と手が自然に合わさった。当時のように薄暗い空間。被爆死した人たちへの慰霊とともに「平和の上に成り立つ人形作り」への思いを深めた。

 職人として伝統の発展に尽くしてきた。大内人形の定番となった「おむすび型」を考案。1984年設立の大内塗漆器振興協同組合の初代理事長を務め、国の伝統的工芸品の指定に奔走した。大内人形としては珍しい金箔(きんぱく)で全体を覆う作品にも挑んだ。

 今も1日5時間ほど筆を持つ。「個展を開くほどの力はない」と依頼をほとんど断ってきたが、卒寿を前に「応援してくれる人たちへの奉公になれば」と応じた。個展では、花器や盆を含む約30点を展示する。70代後半から被爆体験の証言も続ける小笠原さんは「戦争のないありがたさが伝われば」と願っている。

 個展は8月10~16日、山口市中市町の山口井筒屋で開く。(宮野史康)

(2016年7月30日朝刊掲載)

年別アーカイブ