×

ニュース

米寿前に被爆の苦悩詠む 廿日市の田中さん 短歌集自費出版 病にあらがい原稿清書

 被爆者の田中祐子(さちこ)さん(87)=廿日市市地御前=が、米寿を前に自らの苦楽を詠んだ短歌集「生きる」を自費出版した。パーキンソン病の進行にあらがいながら創作。収めた310首のうち30首は被爆体験に基づき、核兵器廃絶と平和への願いを込めた。(長部剛)

 ≪原爆を 詠まむとすれば きりきりと 心痛める 短歌にならぬ≫  原爆に関する短歌は今年に入ってから詠み始めた。「思い出すと泣いてしまい、ノートや原稿用紙に涙が落ちて書けなかった」

 安田高等女学校(現安田女子中高)の専攻科生だった16歳の時、広島市平野町(現中区)の自宅で被爆。崩れた家の下敷きになったが、悲鳴に気付いた男性に助けられた。

 学校の友人の多くは学徒動員先の工場で亡くなった。田中さんは体調不良のため自宅で勉強していた。

 ≪級友の 半ば失い 生き残る 被爆者我の 生き様は何≫

 「仲間への申し訳ない気持ちは一生消えない」と自分を責める。

 1993年、本格的に歌作を始めた。昨年末、短歌集作りに着手。約10年前に発症したパーキンソン病のため手が震え、原稿用紙1枚に10首を清書するのに1日を費やすことも。「原爆」の項目はこう締めくくった。

 ≪幾十年 つきまといたる 原爆が 離れる時は 我が死する時≫

 短歌はこのほか27項目に分けて掲載。84年に夫稲城さんを亡くした悲しみや難病を患う苦しみも盛り込んだ。

 A5判、65ページ。100冊を作成。はつかいち市民図書館などに一部を寄贈する。「被爆者の苦悩と平和を担う若い世代への期待を伝えたかった。同じ病と闘う人へのエールにもなれば」と話す。

(2016年7月30日朝刊掲載)

年別アーカイブ