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社説・コラム

天風録 「ゴジラ再び」

 封切りの日に劇場に足を運んだのは久々だ。あの世界的怪獣シリーズの新作「シン・ゴジラ」。1954年の初代登場の衝撃を、現代版でリメークとの触れ込みに引かれたオールドファンも多かろう。ご同輩の姿が目立った▲筋書きは確かに先祖返りだ。大海原の未知の巨大生物が東京湾から上陸し、首都で破壊の限りを尽くす―。「想定外」と右往左往する政府のどたばたぶりをシニカルに描くのは、3・11を強く意識したからに違いない▲「ネタバレ」に気を使って詳しくは伏せるが新ゴジラ自身も核と放射線の申し子であり、切迫した人類の脅威である。それにどう向き合えばいいのか。絵空事とはいえ、現代日本のあれこれとも重なる意欲作といえる▲だからこそ原点の作品も再び目を向けたい。水爆実験の影響で姿を現した初代ゴジラの物語が、ビキニ事件や第五福竜丸の受難を踏まえたのはあまりにも有名だ。被爆国から核兵器の脅威を告発する意味もあったはず▲その思いは新作にも脈々と流れているように見えた。大ヒットしてお金が余れば東京の展示館で老朽化する福竜丸の保存に力を貸したらどうか。未来のファンにゴジラとともに語り継がれるように。

(2016年7月31日朝刊掲載)

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