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戦下の「日常」 劇画風に 廿日市で「後藤靖香展」 調査積み重ね追体験

 巨大劇画とでもいうべきか。大きいものでは幅10メートルにも及ぶ画面に、墨で描かれた線が力強い。「後藤靖香展―おじいちゃんと戦争画と」が、はつかいち美術ギャラリー(廿日市市)で開かれている。

 広島県北広島町の美術家後藤靖香さん(34)が、旧日本軍の兵士だった祖父をはじめ、先人の体験に基づく21点を出品。「戦争画」というが戦闘シーンはなく、当時の若者の「日常」としての戦争に向き合っている。

 廿日市や広島市で育った後藤さんは子どもの頃、夏休みのたびに母方の祖父母が暮らす北広島町で過ごした。「昼間は穏やかな祖父が夜中にうなされ、寝言で号令を掛けていた。一方で祖父が語る戦中の話は、学校で教わる悲惨なイメージとも違っていた」。ギャップを埋めるように祖父の戦争体験をたどり、調べるようになった。

 図書館で資料を探したり、関係者や識者に話を聞いたり。制作にかける時間は7割が調査、3割が描く時間だ。劇画風のタッチは「素直に描けるものを、と描き始めたら大好きな漫画のようになった」という。

 「栗ごはん」(2007年)は、祖父が語った数少ない思い出話が題材。海上特攻の訓練を受けた香川県の小豆島で、島民から貴重な栗ご飯を振る舞われ、「栗ばかり拾って食べた」と話したという。大胆に筆を振るいながら細部は描き込んであり、若い兵士のしぐさから、空腹感や島民への感謝の気持ち、望郷の念がにじみ出す。

 「芋洗」(08年)は、特攻作戦に赴く輸送船内に押し込められた若い兵士たち。「寄書」(同)は、戦地に配属される仲間のために寄せ書きをするさま。いずれも深刻な場面に違いないが、描かれた人物の表情はさまざまで、おかしみもある。血気盛んな顔、不安げな顔、無気力な顔…。

 「『兵隊』とひとくくりにできない一人一人を描きたかった」と後藤さん。調べることで追体験した戦争を、なじみやすい画風で伝承する。「戦争を過去のことと切り離さず、過去と今とこの先と、ひとつなぎで感じてもらえたら」

 同ギャラリーが毎夏続ける平和美術展の20回目。無料。28日まで(月曜休館)。(森田裕美)

(2016年8月3日朝刊掲載)

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