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[あしたを紡ぐ] ふすま絵 地域を伝える 広島女学院大の三桝教授 交流しアート共有

 アクリル絵の具で表現したメタリックな質感が、水墨画や日本画とはひと味違う空間を作り出す。広島女学院大の三桝正典教授(55)=広島市南区=の新作のふすま絵。廿日市市宮島町の老舗旅館に飾られる絵の表題は「月の光」。フランスの作曲家フォーレによる同名歌曲に着想を得た。

 新作披露を兼ねた展示会を7月、広島市中区のギャラリーで開いた。コントラバス奏者による「月の光」の演奏会を企画。廿日市市吉和の寺院に飾るふすま絵の前では住職の法話会を開いた。

 「地域に根付き、時を経た空間の魅力を発信したい」。作品を前に人々が集い、時間と空間を共有する。そんな活動の原点は、1999年から3年間、広島県内外で取り組んだ「ホワイトチェアプロジェクト」だった。

 石州瓦の家並みが映える田園、荒波が打ち寄せる砂浜…。地元住民の協力で真っ白ないすを約2千脚並べ、劇場のような空間をつくる。「楽しそうにいすを並べ、座っておしゃべりする人たちに出会い、地域と深くつながるアートの奥深さを知った」と振り返る。

 2011年から、ふすま絵を描く。岡山県吉備中央町出身の作庭家、故重森三玲(みれい)が手掛けた広島市安佐南区のフランス料理店の庭に面した和室に、春夏秋冬の4部作を描いた。「日本庭園の常識にとらわれない庭に創作意欲が刺激された」。以来、描いたふすま絵は約130枚を数える。

 被爆直後の広島で咲いたカンナの逸話を各地で伝えている東京在住の女性の紹介で14年3月、真っ赤なカンナのふすま絵を完成させた。東京都足立区の小学校の茶室に展示し、被爆地から遠く離れた大都会で暮らす子どもたちを見守る。

 同年暮れには、頼山陽史跡資料館(広島市中区)にある被爆樹木クロガネモチを描いた。「ふすま絵に向き合うことで、広島の焦土から立ち上がった人たちの生命力を感じることができる。前向きに生きる原動力を伝えたい」(橋原芽生)

(2016年8月3日朝刊掲載)

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