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社説・コラム

社説 安倍再改造内閣 長期政権の思惑透ける

 安倍晋三首相の思惑がにじむ新体制といえよう。参院選を受けて、きのう行った内閣改造と自民党役員人事である。

 内閣改造では、19人の閣僚のうち11人が交代したが、麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官らが留任し、主要閣僚の顔触れは大きく変わらなかった。

 「道半ば」とするアベノミクスの推進を継続させる考えなのだろう。しかし、金融緩和頼みに限界が見え、政策そのものの見直しが避けられない段階にきている。新鮮味に欠ける顔触れで、どんな妙手を打って挽回していくのか。経済再生への確かな道筋が見えてこない。

 歴史認識などの考え方が首相に近い側近の重用が目立つのも気に掛かる。首相が自らの後継者と見込む稲田朋美・前政調会長を女性2人目の防衛相に起用した。経済産業相で入閣する世耕弘成氏も側近の一人として知られる。

 続投する塩崎恭久厚生労働相や、石原伸晃経済再生担当相も首相と同じ議員グループを結成するなど、盟友関係にあるとされる。「お友達内閣」が続いたとの印象を否めず、自らの意向を反映しやすい体制固めと言われても仕方ないだろう。

 一方で、交代した閣僚のうち8人が初入閣となった。ポストを渇望する待機組の不満に応え、派閥のバランスにも留意した跡がうかがえる。長期政権の実現へ、党内基盤を固めたいとする内向きの論理が透ける。

 むしろ党人事の方がサプライズといえよう。焦点の幹事長には総務会長だった二階俊博氏をあてた。党内ににらみが利き、公明党にも太いパイプがある。野党にも幅広い人脈を持つ。さらにいえば首相が強い意欲を見せる憲法改正の議論が本格化するのを見据え、与野党の調整役としての起用とみていい。

 ただ二階氏は就任会見で憲法改正について「慎重の上に慎重に対応するのは当然だ」と述べた。まっとうな見識だろう。

 安倍政権下では官邸主導の政権運営で党の発言力が低下したとされる。党内も「安倍1強」色が強まり、異論をさしはさむ空気が失われたように見える。時には首相の行き過ぎに苦言し、活発な議論を促す党運営の手腕が問われるところだ。

 二階幹事長の就任でもう一つ注目されるのが、2018年に迎える首相の党総裁としての任期切れの問題をどう扱うかだ。参院選後、任期延長容認を公言していたことから、3年の総裁任期を連続2期までとする党則改正への布石を打ったとの臆測が広がる。きのうの会見でも二階氏は前向きな姿勢を示し、にわかに現実味が増してきた。

 ただ全てが首相の腹一つというなら巨大政党の在り方として問題はないのか。その点では、「ポスト安倍」を巡る党内の動きも注視したい。総裁選へ意欲を隠さない石破茂氏が閣外に去った。「自民党に多様な意見があることは大事」として反安倍の受け皿づくりに動くのかもしれない。一方、ライバルの岸田文雄外相は留任要請に応じた。

 見方によっては「ポスト安倍」をにらみ、安倍氏の影響力の維持を企図した新体制のスタートともいえる。ただ数の力に頼んで政権基盤を固めるだけでは民意との溝を深めることになりかねない。国民の声に謙虚に耳を傾ける姿勢が欠かせない。

(2016年8月4日朝刊掲載)

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