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社説・コラム

『潮流』 ヒロシマの磁場

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長・宮崎智三

 広島を訪問されれば、「核兵器による安全保障」という神話が「理論」にすぎず、核兵器の使用がもたらすのは、悲惨な「現実」であることを理解していただけるはず―。

 広島県知事が7月、190の国連加盟国に送った文書の一節である。オバマ米大統領の被爆地訪問を受けて、ほかの国の首脳たちにも被爆の実態を知ってもらうため、広島訪問を求めている。

 確かに、広島には何か磁場のような力があるのかもしれない。爆心地の近くにある原爆ドームを見上げ、大勢の人が閃光(せんこう)を浴びた場所でもある平和記念公園の土を踏みしめて原爆資料館を見学する。そんなふうにヒロシマと向き合うことで、国内外からの来訪者の多くは心を動かされる。

 もちろん、訪れる人が何かを学ぼうとしたり感じようとしたりするからこそ、被爆地の磁場が力を発揮するのだろう。たとえ、スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」などで平和記念公園に来ても、公園の歴史や意味を考えないなら、どうなるか。単に中区中島町1番という場所に来ているだけで終わってしまい、ヒロシマと向き合うことにはなるまい。

 あさっては8月6日。平和記念式典の参列者にも、ヒロシマの重みに無関心な人がいるだろう。「被爆国」の名を都合のいいときだけ使い、一日も早く核兵器をなくしてと望む被爆者に寄り添う姿勢に乏しい政治家も散見される。

 いま、核軍縮の進展をめざす国連作業部会で核兵器禁止条約の議論が大詰めだ。核兵器保有に法的な縛りを設ける好機である。被爆者の思いに沿って行動するのか、消極的な態度を取り続けるのか、日本は岐路に立つ。

 今からでも遅くはない。知事には、日本の政治家全員にも要請文を出してほしい。ぜひ広島を訪れて被爆の実態と向き合ってもらいたい、と。

(2016年8月4日朝刊掲載)

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