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緊急連載 知事許可の波紋 上関原発予定地埋め立て <上> 憤る祝島 過疎高齢化 対立再燃も

 「怒りがこみ上げる」「情けない」―。山口県上関町での原発建設を計画する中国電力が申請した公有水面埋め立て免許の延長を、同県が許可した3日、計画反対派が大半の同町祝島では、住民が憤りを募らせた。福島第1原発事故を受けた準備工事中断から5年余り。県の突然の方針転換は、過疎高齢化に悩む町で火種となり、歩み寄りを見せていた住民間の対立を再燃しかねない。

 4年に1度奉納される県指定無形民俗文化財の「神舞(かんまい)」まで2週間を切った祝島。上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表(61)は、準備作業の手を止め「不許可を期待していた。信じられない」と語気を強めた。

 昨年9月の町長選は、1982年の上関原発構想の浮上から初めて、反対派候補の擁立を見送った。無投票で4選した柏原重海町長も、推進派に推されながら「原子力は国策。見守るしかない」と述べるにとどめ、配慮を見せた。対立をあおりかねない今回の県の判断。清水代表は「原発とまちづくりは分けて考えたい」と言葉をつないだ。

社会保障費が影

 80年に6773人いた町人口は今や半分以下に。今月1日時点では2996人となり、3千人を割り込んだ。高齢化率は県内最高の54%。企業の進出もなく、税収減と社会保障費が町財政に影を落とす。

 柏原町長は3日、会見で反対派への気遣いを見せつつ、「町の財政が厳しい。暮らしを守るためには原子力を推進せざるをえない」と踏み込んだ。建設に携わる居住者の増加、商工業者の業績回復、電源3法交付金―。埋め立て工事再開後の恩恵に説明が及んだ。

 東日本大震災直後には、「慎重な対応」を中電に要請。工事は中断した。以来5年余り。柏原町長は「3・11であれだけの被害が出た。反省の上に再稼働もしている」と述べ、原発の信頼性や安全面への意識が向上したとの見方を示した。

現地視察の直後

 推進派の上関町まちづくり連絡協議会の古泉直紀事務局長(58)は「公有水面埋立法に基づき、適切に判断いただいた」と歓迎。「原子力はベースロード電源。新増設の議論の活性化を望みたい」と見据える。

 祝島は6日前、埋め立て免許取り消しを求める訴訟の初の現地視察で、山口地裁の裁判官を迎えたばかりだった。裁判官の聞き取りに応じた反対派で原告の中村隆子さん(86)。司法に淡い期待を抱いた直後だっただけに、「延長は怒りしかない」と声を震わせた。

 埋め立て工事が中断されるまでは、予定地での阻止行動に連日、参加した。足腰は弱り、今は毎週月曜の島内デモにも加われない。1人暮らしの住まいがある高台。毎朝、太陽に手を合わせて健康を祈る。海を隔てた東約4キロ先には予定地の田ノ浦湾が横たわる。

 「原発が建ったら、それに向かって朝日を拝むことになってしまう。知事はこの景色も見ず、私たちの思いを無視している」(井上龍太郎)

(2016年8月4日朝刊掲載)

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