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緊急連載 知事許可の波紋 上関原発予定地埋め立て <下> 山口県と中電

両者に利点 懸案区切り

 中国電力で原発を含む発電所の新設や運営など発電事業を一元的に担う電源事業本部。そのトップである迫谷章副社長は3日、山口県庁で2枚の文書を手にした。1枚は、上関原発建設で同県上関町の公有水面を埋め立てる免許を延長する許可書。もう1枚は「発電所本体の着工時期の見通しがつくまでは、埋め立て工事をしない」よう求める、村岡嗣政知事の要請書だ。

 迫谷副社長は、許可書に「大変ありがたい」、要請書には「重く受け止める」と応じた。2011年3月の福島第1原発事故を受けて埋め立て工事を中断した中電にとって、免許延長は「いつでも工事を再開できるフリーハンドを得た」(県幹部)ことを意味する。条件付きとはいえ、主導権を握る利点は大きい。

判断を先送りに

 許可決定は、県にもメリットがある。11年6月、当時の二井関成知事は免許延長で「申請があっても認められない」と表明。12年10月に中電が最初の延長申請をした際は、当時の故山本繁太郎知事が「不許可処分をすることになる」と明言した。その後、山本知事は態度を翻し、13年3月に判断を先送りする姿勢に転換。14年2月就任の村岡知事は方針を踏襲してきた。

 県幹部は「県が中電に補足説明を求め、その回答が1年後に届くというやりとりが、毎年繰り返された。そのたびに、村岡知事は批判を浴びてきた」と振り返る。今回の許可で、県が批判の矢面に立ち続ける状態は一定に解消された。

 村岡知事は3日、許可した理由を説明するため県庁で記者会見した。「許可せざるを得ない」。繰り返す言葉に、この結論しかないとの態度をにじませた。

 今回、県が延長を許可した最大の理由としたのが、中電が経済産業省資源エネルギー庁から得た1枚の紙だった。「上関原発の重要電源開発地点指定は引き続き有効」。中電が6月22日に回答した7度目の補足説明で提示。県は「上関原発が国のエネルギー政策に位置付けられていると具体的に示された」と説明する。

 中電では4月、清水希茂社長が就任。直後に上関町を訪れ、「日本で唯一の新規立地点。何とか早く進められるよう、これまで以上に注力する」と強調した。上関原子力立地プロジェクト長に6月、上関調査事務所副所長や山口支社副支社長の経験者を起用し、推進姿勢をアピールした。

質問の焦点絞る

 7度目の補足説明に向けても入念な準備を重ねた。政府が「新増設を想定していない」とする中で「重要電源開発地点を巡る説明がポイントになる」と判断。資源エネルギー庁への質問を、これまでの「重要電源開発地点制度について、現時点で見直しを考えているのか」から「上関原発の指定は、引き続き有効で解除されることはないか」へと焦点を絞った。

 今回の県の決定には、中電社内に驚きが広がったという。ある中電幹部は「反対派の声もあり、県側は苦労していた。何らかの判断をしなくてはならないというのが県にあったのではないか」とおもんぱかった。

 長引く審査に決着をつけたい県、上関原発建設のカードを保ちたい中電、原発再稼働など原発活用路線を取る政府。今回の許可は、それぞれに「都合がいい」(自民党県議)結果となった。1982年に原発構想が浮上して以降、住民が推進、反対両派に分かれる上関町は蚊帳の外だった。(佐藤正明、河野揚)

(2016年8月5日朝刊掲載)

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