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世界に問う核廃絶 広島 あす原爆の日

 広島と長崎は核戦争の夜明けではなく、道徳的な目覚めの始まりに―。オバマ米大統領は5月、被爆地広島で訴えた。たった1発の原爆で壊滅した広島。苦難の末、平穏な営みと町並みを築き直したが、核兵器のない朝は取り戻せてはいない。巡り来る原爆の日の6日。被爆71年に刻まれた核超大国トップの一歩に関心が高まる今こそ、世界へ迫る好機だ。核廃絶の歩みを早めよ、と。

 5月27日。オバマ氏は原爆資料館(広島市中区)の東館1階に特設された数点の資料を見た後、原爆慰霊碑に花輪をささげ、目を閉じた。ヒロシマ演説で「核兵器のない世界を追求する勇気」を持つよう保有国へ訴え、2人の被爆者の言葉に耳を傾けた。

 あれから2カ月余り。オバマ氏が市に贈った折り鶴4羽とメッセージが展示される資料館の入館者数は、被爆70年の昨年同時期の1・4倍に。原爆投下国の現職大統領の訪問の余韻は、まだ続いてはいる。

 平和記念公園を52分の滞在で後にしたオバマ氏。何を見て、どう感じたのか。非公開だった資料館内の様子など、私たちはあれから、可能な限り迫ろうと取材を続けた。行事に招かれた被爆者たちの思いを尋ねて回った。52分という時間では決して分かりようのない、原爆被害の悲惨さが浮かび上がる。

 ヒロシマの声はオバマ氏に届いたのだろうか。

 側近のローズ大統領副補佐官は7月の中国新聞の単独インタビューで、来年1月に退くまで政権は核軍縮へ「ステップを踏み続ける」と明言した。実際、核政策の大幅な見直しを検討中とし、敵に核攻撃を受けるまで核兵器を使わない先制不使用の宣言も含まれているとされる。実現すれば核超大国にとって大きな「チェンジ」だ。

 一方の被爆国である日本。「核の傘」に頼る安全保障を理由に見直しに待ったをかけるのでは、と被爆者や反核団体は懸念する。核兵器禁止条約に後ろ向きな姿勢にも批判を強める。核軍縮の進展を目指す国連作業部会では、多数の非保有国が法的禁止を支持する。今月の最終会合を経て多国間で本格議論が始まろうかという中、被爆国政府の立ち位置が問われる。

 3月末時点で被爆者健康手帳の所持者は17万4080人となり、1981年のピークの半分を切った。平均年齢は80・86歳。核兵器のない世界へ、オバマ氏の訪問をどう生かし、つなげるのか。ヒロシマは足元を見つめ直す夏になる。(岡田浩平)

(2016年8月5日朝刊掲載)

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